人間は本当に自由なのか?

人間は本当に自由なのか?

自由という常識

私たちの多くは普段、自分は自由だと思っているでしょう。たとえば、この講義を読むことに決めたのはあなたで、あなたはこの講義を見ないこともできたはずです。あなたは自由意志で、自分が何をするかを選ぶことができたのです。つまり、人間には「選択の自由」があるはずです。
面白いことに、人間にはそんな「選択の自由」はないのだと主張する哲学者たちがいます。デイヴィッド・ヒュームという18世紀のスコットランド人はその一人です。彼の意見では、あなたがこの文章を読むことは最初から決まっていました。それは「必然」だったのです――。なぜそんな話になるのでしょうか?

科学と哲学

ヒュームが活躍した時代の少し前、17世紀に科学革命というものが起こりました。ガリレオやニュートンが登場して、いまで言う「物理学」が成立し始め、さまざまな物体の運動の予測が可能になってきました。もちろん、我々には予測できないこともあります。しかし、それは人間の能力の問題であって、自然界のほうでは物事がどう運ぶかはすでに決まっているのではないか、こうした「決定論」という考え方に説得力が出てきました。
そんな中、ヒュームは「人間も自然の一部だ」と信じていました(これは当時は当たり前の考えではありません。たとえば、ヒュームの後に登場したカントは、こうした考えを否定しています)。しかし、人間も自然の一部だとすると、人間もほかの物体と同じように、物理法則に支配されているはずです。ということは、「決定論」は人間にも当てはまるはずです。

自然科学と両立する人間像をもとめて

こうして、ヒュームは決定論的な世界でも成立する人間の自由を探求することになりました。それが彼の言う「自発性の自由」です。ともあれ重要なのは、ヒュームがキリスト教の影響が依然として強い西洋近代において、神の存在を徹底的に疑いながら、自然科学と両立する人間像を妥協せず追求し始めた哲学者だ、ということです。なぜヒュームにはそれができたのか、というのは面白い問題です。

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学習院大学 文学部 哲学科 教授 澤田 和範 先生

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興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

哲学、倫理学、思想史、宗教学

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メッセージ

ある哲学者のかっこいい言葉を目にして、哲学に興味を持ったという人も多いかもしれません。そんな哲学者たちは、それぞれが生きた時代の中で、ある重要な問題をほかの哲学者たちと議論し、その議論を通じて最終的な答えを与えようとしています。もしあなたが、たとえば「人と議論するのが楽しい」、「自分の考えをたんに言い張るのではなく、それに理屈を通したい」といった気持ちを持っているなら、哲学科は選択肢の一つです。もちろん「ある哲学者やその言葉の歴史的背景を深く知りたい」という場合も。

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