稲作農家を救え! 洪水に強いイネをつくる遺伝子の発見
熱帯アジアの洪水から稲作農家を救った!
熱帯アジアでは洪水が多く、稲作をしている農家を悩ませてきました。イネは、葉の部分も含めて植物体全体が水没すると、窒息して死んでしまいます。熱帯地域の洪水は、日本の洪水よりも規模が大きく、稲作に最も甚大な被害をもたらす自然災害となっています。
洪水に強い品種は以前からあるのですが、一般に栽培されているコメよりも収穫量や味が悪いという欠点があります。そこで、洪水に強いイネの遺伝子を、高収量で味がよい品種に導入し、収穫量や味だけでなく洪水耐性も兼ね備えたイネの開発が行われました。現在ではインド、インドネシア、フィリピンなど熱帯アジアの国々の農家でその品種が栽培されています。
画期的な洪水耐性遺伝子SUB1Aの発見
この品種改良を可能にしたのは、SUB1Aという遺伝子の発見です。SUB1Aは洪水があったときだけ発現するので、SUB1Aを含むコメと含まないコメの性質は、収穫量や味を含めて同じであり、SUB1Aを導入したことによる副作用は見られません。
これまでも自然災害への耐性に関わる遺伝子は数多く発見されてきましたが、品種改良に結び付くことはまれでした。干ばつ、熱波、寒波などの自然災害への耐性に関わる遺伝子は非常に多く、それらのすべてを一つの品種に組み込んで制御することが困難だからです。しかし、洪水耐性の場合、SUB1Aという強力な「司令塔遺伝子」が、洪水耐性に関わる多くの遺伝子を制御することで耐性を得ています。そのため、たくさんの遺伝子を組み込むことなく、SUB1Aを導入するだけで品種改良に成功することができたのです。
洪水に強いコシヒカリを作ることもできる
地球温暖化による気候変動で、今後、日本でも洪水による被害が甚大になる可能性があります。熱帯アジアに似た気候になってきているのです。日本ではまだ洪水耐性のイネは栽培されていませんが、このSUB1Aを導入すれば、洪水に強いコシヒカリを作ることもできるため、日本の農業にとって心強い技術なのです。
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福井県立大学 生物資源学部 生物資源学科 教授 深尾 武司 先生
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