世界の食料生産を効率化し、人類を救う研究
日本は、もともと小麦の生育に向いていない
日本は、パンやパスタなどの原材料となる小麦の85%を輸入に頼っています。小麦の自給率が低いために、日本の食料自給率は先進国の中で著しく低く、38%しかありません。モンスーン地帯の日本は雨が多く、もともと小麦の生育には向いていません。小麦の自給率を高めるためには、日本の気候に合った品種を開発することが必要です。
寒さに強く収穫時期が早い「ふくこむぎ」
そこで、降雪地帯であり、日照時間が少なく湿気が多い北陸・福井県でも生育できる小麦の新品種が研究されました。まず、春に播いて秋に収穫できる春小麦と、秋に播いて冬の低温にさらされないと穂ができない秋小麦との交雑実験から、開花を制御する遺伝子があることが推定され、「VRN1」と名付けられました。その後、1998年に世界で初めてVRN1のDNAの塩基配列が明らかになりました。さらに実験により、冬の低温や春の長日で遺伝子が活性化されることや、それによって穂ができる仕組みなども解明されました。その結果、寒さに強いナンブコムギと、VRN1が強く働くニシカゼコムギを交配し、寒さに強く収穫時期が早い「ふくこむぎ」という新品種の開発に成功したのです。
技術は各国から注目を集める
「ふくこむぎ」は交配により作り上げた新品種ですが、遺伝子操作により新品種を作り出すこともできます。遺伝子組換え作物は農学の最先端の研究分野です。小麦に限らず、農作物の品種改良の目的は、収穫量を増やしたり、収穫時期をずらしたり、味を変えたりなどさまざまです。その際、品種を特徴づける遺伝子がわかれば、望み通りの農作物を作ることが可能なのです。
小麦は主食としている国が多いので、その技術は各国から注目を集めています。戦後、アメリカの農政局の担当者が、小麦の品種改良を手掛ける日本の研究者を真っ先に訪ねたことからもわかる通り、小麦の新品種開発は、世界の食料生産に関わる重要な分野なのです。
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先生情報 / 大学情報
福井県立大学 生物資源学部 創造農学科 教授 村井 耕二 先生
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