花から取り出した酵母を利用しておいしい日本酒をつくる
醸造や発酵は酵母からの恩恵
酵母は単細胞の菌類です。現在1500種ほど存在していますが、そのなかで「サッカロマイセス・セレビシエ」という1種類の酵母のみが醸造や発酵などにより産業界で利用されています。酵母は糖を食べてエネルギーを得ます。糖はアルコールとガスに分解され、細胞の外に放出されます。アルコールはほとんどの生物にとって非常に高い殺菌力を示すので、ほかの生き物との生存競争において酵母が生き延びるために獲得した能力といえるでしょう。人間は酒造りの時にアルコールを、パンなどを膨らませる時にガスを用いて酵母の恩恵を受けています。
個性豊かな「サッカロマイセス・セレビシエ」
酵母は自然界のさまざまな場所に存在しますが、とりわけ糖があって生き延びやすい場所を好みます。そのため、糖分が多い花や果物、樹液は、酵母がいる可能性が高い場所です。同じサッカロマイセス・セレビシエでも個性があり、日本酒、焼酎、ビール、パンなど得意分野はそれぞれ違います。酵母がたどり着く場所は偶然によるものであるため、どの個性の酵母がどんな場所にいるのか規則性はありません。そのため取り出した酵母の中からサッカロマイセス・セレビシエのみを分別し、実際に酒やパンをつくることで個性を見極めています。
おいしい日本酒をつくる酵母を求めて
そこで、おいしい日本酒をつくることができるサッカロマイセス・セレビシエをいかに効率よく分離するかという研究が行われています。見つかった酵母は、実際に酒蔵で酒造りに活用され、多くの日本酒や焼酎がつくられています。できた製品の分析が研究の役に立つため、産業界と大学が酵母を仲立ちとして緊密な関係を持っています。
また地域創生として、実際にその町で咲いている花から酵母を取り出し、特産品やお土産品をつくることも考えられています。現在は実際に使われない限り酵母の個性はわかりませんが、酵母の遺伝子調査が進めば、おいしい日本酒やパンとの関係も解明されるかもしれません。
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東京農業大学 応用生物科学部 醸造科学科 教授 数岡 孝幸 先生
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