植物が成長過程で形を変える不思議 植物発生学の研究
植物の発生の不思議
生物が受精卵から成体の組織・器官を作り上げるまでの一連の過程を「発生」といいます。動物も植物も、発生のスタートは受精卵で、受精卵が細胞分裂を行い、胚を形成します。人間を含め動物では、胚発生過程でほとんどの組織・器官ができるため、生まれたときと成熟した個体の形(ボディープラン)はほぼ同じです。しかし植物は、発芽後に葉ができ茎が伸び、花や実をつけていくことからもわかるように、発生の過程でさまざまに形を変えていきます。植物ならではの不思議な現象といえますが、こうした形の変化を可能にするのが、「メリステム(分裂組織)」の働きです。
メリステムの役割
メリステムとは、幹細胞群を含む組織のことで、葉や花器官などの組織・器官を作るための細胞の供給源です。発芽したばかりの植物の地上部には、1つのメリステムのみが存在し、そのメリステムの働きにより、葉や茎が分化して主茎が作られます。植物の成長過程で、枝を作ったり花器官を作ったりするための各種のメリステムが出現し、これらを機に、枝や花が形作られます。このように、メリステムの働きのおかげで、植物は一生を通じて形を変えていくことが可能となっています。
イネの発生学研究は基礎・応用の両方面に寄与する
このような各種のメリステムの恒常性は、どのような遺伝子の働きによって維持されているのでしょうか? 植物の成長過程で起こる新たなメリステムの出現は、どのような遺伝子の働きによるものなのでしょうか? こういった問題意識のもとに、世界中の植物発生学研究者が熱心に研究に取り組んでいます。2015年には、モデル単子葉植物イネの枝の元となるメリステムが出現する際に必要な働きをする遺伝子が世界で初めて特定され、大きな学術的インパクトをもたらしました。イネの枝は穂が形成される部分でもあるため、その研究は、イネの品種改良とりわけ米の収量増加にも寄与するものとして、さらなる発展が期待されています。
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