発熱する植物が、生物の恒常性の謎を解くカギになる
発熱する植物、ザゼンソウ
哺乳類は、自分の体温を一定に保つことのできる「恒温動物」ですが、植物の中にも、自ら発熱して体温を保つ種類があります。ザゼンソウというサトイモ科の植物は、外気温が氷点下の場合でも、肉穂花序という器官を発熱させることによって、体温を約23度に保つことができます。
ザゼンソウは、めしべに受粉した花粉から、花粉管という管が伸びて受精に至りますが、花粉管の伸びるための最適温度が23度くらいであるため、こうしたメカニズムができあがったと考えられています。
植物のアルゴリズムを産業に応用
生物が発熱によって体温調節をする場合には、「外気温を感知する機能」「発熱する機能」「温度を制御する機能」という3つの機能が必要といえます。動物の場合、脳をはじめとする神経系の複雑な働きによってコントロールしています。しかし、植物には神経が存在しないため、動物とは異なるメカニズムによって温度制御を実現していると思われます。
ザゼンソウの体温の変化を時系列で計測し、大量のデータを数学的に解析することで、ある種のアルゴリズム(計算手順)を持っていることが見つかりました。ザゼンソウには、電子回路のような制御方法が備わっているということです。そのアルゴリズムを利用して、効率的な温度調節ができる装置も開発され、現在、自動車製造など、世界各地の産業の現場で利用されています。
ホメオスタシスのメカニズムを解明
生物には、ホメオスタシス(生体恒常性)といって、体内の状態を一定に保つ働きがあります。体温調節もその一部です。ホメオスタシスの維持には、非常に複雑な要素が作用しています。それは、遺伝子の発現という一要素だけでは説明できず、ホメオスタシスのシステムの立体的な全体像を把握する必要があると考えられています。例えば、植物の体温調節と動物の体温調節のメカニズムに何か共通性が見つかれば、生物のホメオスタシスを解明するための手がかりになるかもしれません。
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先生情報 / 大学情報
岩手大学 農学部 応用生物化学科(令和7年度から農学部 生命科学科 分子生物機能学コース所属) 教授 伊藤 菊一 先生
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