講義No.10063 医学 生物学

アルツハイマー病の発病の原因を探る

アルツハイマー病の発病の原因を探る

脳細胞は入れ替わらない

脳は体が感じた情報を処理する器官です。見ることは目だけでできるのではなく、目からの情報を視神経で運び、脳が判断します。感覚や運動を制御する機能だけでなく、学習や記憶、感情の制御などを行う器官でもあり、人間性そのものだと言えるでしょう。
脳は、一般的な器官と違い、細胞が入れ替わることはありません。かすり傷ができたとき、皮膚の細胞はすぐに入れ替わり1週間程度で治ります。血球細胞も3カ月もすれば、ほとんど入れ替わります。しかし、脳は生まれたときにほぼ全部の脳細胞ができあがっており、10代くらいまでに成長を遂げると、その後は増えることも入れ替わることもありません。脳の神経はコンピュータの基盤のようにネットワークをつくり、その部分ごとにさまざまな記憶をため込んでいるので、入れ替わるわけにはいかないのです。

アルツハイマー病は脳の病気

ヒトは、ほかの器官が元気でも脳が死ぬと、目が見えなくなったり、記憶がなくなったりします。アルツハイマー病は認知症の一番の原因です。なぜアルツハイマー病になるかは、いまだに解明されていません。家族に発病歴がなくてもかかることから、遺伝性の病気でもありません。現在、脳の中に特有のタンパク質がたまることで脳細胞が死んでしまい、アルツハイマー病を引き起こすことまではわかっています。なぜたまるのか、どうしたらたまらなくなるのかを探るのが、これからの研究目標なのです。

増え続ける患者

日本では2019年時点で80歳以上の4人に1人が認知症であり、そのほとんどがアルツハイマー型認知症だといわれています。世界では今のところ5000万人くらい患者がいて、このままいけば2050年には患者数が1億人を超えてしまうかもしれません。医学が進歩して寿命が延びたとしても、脳の機能が正常に働き続けなければ、幸せに生きることは難しいでしょう。世界中で共同研究を行い、アルツハイマー病のメカニズムを解明する必要に迫られているのです。

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東京都立大学 理学部 生命科学科 准教授 安藤 香奈絵 先生

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生命科学

メッセージ

大学での学びは高校と違って答えがありません。高校の勉強は答えがある問題について、どうやったら答えがうまく出せるかを考えるものです。
情報のシェアが簡単になったことで、サイエンスの進歩は加速を続けています。大学で学ぶ生物学は、教科書に書いてあることでさえ正しいとは限りません。教科書は5年もたてば古くなってしまいます。どんどん新しいことが解明されています。次にその新しいことを見つけるのはあなたなのです。自分を信じて頑張ってください。

先生への質問

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