細胞に生えた1本の毛の謎

細胞に生えた1本の毛の謎

細胞外部からの刺激を感知するセンサー

生物の細胞表面には、「繊毛」とよばれる毛のような構造体があります。精子の推進力を生み出す鞭(べん)毛や、気管に侵入した異物を除去する上皮細胞の繊毛は「運動する繊毛」の代表例で、その機能や重要性は昔から知られています。これに対し、特殊な細胞をのぞいてほとんどの細胞に1本ずつ生えている、運動しない「一次繊毛」については、その働きがよくわかっていませんでした。近年、この一次繊毛は細胞外の環境に対するセンサーとして重要な働きをしていることが明らかになり、一次繊毛の異常は、糖尿病や認知症などさまざまな疾患の原因となることもわかってきました。

一次繊毛の異常が引き起こす腎臓疾患

腎臓の病気である嚢胞腎(のうほうじん)も一次繊毛の異常が引き起こす疾患の一つです。嚢胞腎は、腎臓を構成する尿細管が風船のように膨らんでしまう病気で、進行すると腎不全となり、移植しか治療法はありません。
尿の通り道である尿細管の上皮細胞にある一次繊毛は、尿の流れを感知する力学的なセンサーとして働いています。尿の流れで一次繊毛が倒されるとセンサーのスイッチがオンになり、「尿が流れている」という情報が細胞に正しく伝わることで、尿細管の細胞としての機能が維持され、組織の形が保たれていると考えられています。したがって一次繊毛に異常があると情報伝達がうまくいかず、細胞の形や組織が崩れて嚢胞腎となってしまうというわけです。

情報伝達メカニズムの解明を

尿細管の上皮細胞に限らず、一次繊毛から細胞へ情報が伝達するメカニズムは、まだよくわからないことが多くあります。そこで、一次繊毛の情報伝達に関わるタンパク質が欠損したマウスを使って、そのタンパク質の機能や遺伝子の解析が行われています。これまでに、一次繊毛からのシグナルであるカルシウムを最初に制御しているらしいタンパク質が明らかになってきており、そこから情報が細胞にどのように伝わるのかについて、さらに研究が進められています。

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大阪医科薬科大学 医学部  准教授 杉山 紀之 先生

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発生生物学

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メッセージ

サイエンスに対して、ハードルが高い、勉強が大変だ、というイメージを持つ人は多いようですが、そんなことはありません。サイエンスの根幹とは「なんでだろう?」という小さな疑問を持つことです。教科書に対しても同じで、書かれていることはすべて正解ではなく、実際に10年前の教科書とは違いますし、これからも書き換えられていくでしょう。なぜと問いかける姿勢はサイエンスに限らず役に立つものです。特に研究者をめざすなら、普段からいろいろなことに対してクエスチョンの視点を持ってみてください。

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2021年4月、大阪医科大学と大阪薬科大学は大学統合を行い、医学部・薬学部・看護学部を有する本邦有数の医療系総合大学「大阪医科薬科大学」としてスタートしました。
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