自然環境と生態系の「回復力」を、暮らしに役立てる
人々の予測を上回る速さで回復する生態系
2011年に発生した東日本大震災で、東北地方の太平洋側沿岸部は、巨大津波による壊滅的な被害を受けました。ところが、被災のわずか数カ月後には、荒れ地と化した沿岸部で植生(植物の集団)の回復が観察されるようになりました。流されなかった草や樹木、土砂に埋まっていた種子や根などが新しい植物群落を作り、そこに昆虫や鳥などが集まり、現在も着実に再生が進んでいるのです。
自然には、人間が考える以上の「レジリエンス(回復力)」があり、現在、その力を環境保護や防災に役立てる研究が進められています。
「エコトーン」が育む多様な生態系と人々の暮らし
砂浜の海岸から内陸部に向けて進むと、一定のルールに則って自然環境が変化していくことがわかります。汀線(ていせん:海面と陸地の境)から少し離れた砂丘に海浜植物が群生し、もう少し内陸側に向かうと植栽されたマツや自生した低・中木などの林、そこを抜けると、今度は河川が運んできた土砂が堆積した平野部があり、そこに水田や畑、住居など人間が暮らすエリアが広がる、という変化パターンが一般的です。このように、異なる自然環境が連続的につながっている様子を「エコトーン」と呼びます。この連続性を維持することが、生態系の多様性を保つと同時に、人々の暮らしを自然災害から守る上で、非常に重要であることがわかってきました。
自然と共存し賢く利用するまちづくり
堤防や砂防柵、護岸ブロックなどの人工の防災設備が、全く要らないというわけではありません。ただ、自然の地形と、そこに形成されたエコトーンは、はるか昔から繰り返されてきた自然災害を経て、「あるべき姿」としてそこに存在しているのです。
自然が持つたくましさを科学的に理解し、それを活用しながら防災・減災を図ること、都市開発を行う際も、もともとその地にあった自然を生かした「グリーンインフラ」を実現することが、持続可能な社会を実現することにつながるのです。
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先生情報 / 大学情報
広島工業大学 環境学部 地球環境学科 ※2025年設置構想中 准教授 岡 浩平 先生
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保全生態学、景観生態学、緑化工学先生が目指すSDGs
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