コラージュ(貼り絵)に表現される高齢者のこころ
高齢者の心理臨床
臨床心理学は、心の問題を抱えた人に対して、その人をどう理解し、どのような支援ができるかということを探究する学問です。高齢者の置かれた状況を考えてみると、身体機能の衰え、複数の病気を抱えること、人間関係の変化(家族との距離、退職・離職)、認知症や死に対する複雑な感情などの心の問題が考えられます。いずれも解決することが難しかったり、一つの答えが出ない問題ばかりです。「老い」を避けることはできませんが、高齢者が新たな自分を発見し、その人らしく生きていくような心理面での支援は重要性を増してきています。
心理療法における「表現」
私たちは、何か悩みや困ったことがあったとき、まずは誰かに相談したり、話を聞いてもらいます(もちろん、「誰にも言い出せない」という苦しみもありますが)。言語表現は心理療法を行う上で重要なものです。しかし、「伝えたいけどうまく言えない」と日常的に感じられるように、不可視で実体のない心の中で生じている内容を言語化することにも限りがあります。だからこそ、絵を描いたり、何かを作ったり、音楽、ダンスなども含んだ非言語表現が伝えてくれることも多いのです。自由な表現が許される場面では、人は自分自身の力で何かを作り出していくことになります。セラピストがその表現に関心を払い、見守り、尊重することはとても治療的なプロセスであり、このような心理療法のアプローチを、芸術療法、表現療法と呼びます。
コラージュの実践
高齢者に対する表現療法として、コラージュ(貼り絵)というアプローチがあります。雑誌やパンフレットの絵や写真を切り抜き、画用紙の上に自由に配置して、1枚の作品に仕上げていきます。作られる作品はさまざまで、例えば、美しい風景写真から旅が、お寺や教会の写真から祈りが、子どもの写真から家族への想いが想像されたりなど、貼り絵の中に心の世界がのびのびと表現されます。コラージュ1枚1枚を通じて、年を取ってからも変化し、豊かさを見せる高齢者の心に触れることができます。
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