公営団地からコミュニティのありようを考える
「団地」の成り立ちはさまざま
日本の団地の成り立ちは、大きく「公営住宅」「都道府県住宅供給公社が建設した公社住宅」「旧日本住宅公団(現UR都市機構)が建設した公団住宅」「社宅・公務員住宅」の4つに分けられます。中でも昭和の高度経済成長期に建てられた公営住宅は、建物の老朽化や住民の高齢化が進み、近年は生活に何らかの困りごとを抱える人の入居が優先されていることもあり、社会的孤立をはじめとするコミュニティの課題やそれに対する取り組みが顕著にみられます。こうした「公営団地」に着目した、コミュニティのありようについての研究が進められています。
自治会に参加する意外な理由
薄れゆく公営団地のコミュニティを再生するために、とある公営団地の住人たちに自治会参加に関する意識調査をしたところ、意外なことがわかりました。「他の入居者に対して不信感が強い人ほど、自治会に積極的に参加する傾向がある」というのです。参加しないことで自分が仲間外れにされたり、うわさになったりするのを警戒して自治会に参加するのです。これは「親睦を図り信頼関係を高める」という本来の自治会参加の意義とは正反対の結果であり、さらに言えば、自治会を活性化することが必ずしもコミュニティの再生に直結するわけではない可能性を示唆するものです。
誰が来てもいい「場」をつくる
公営団地の中だけで、コミュニティを活性化するのには限界があります。そこでこの公営団地では、だれもが気軽に立ち寄れるサロンが作られました。そこはやがて、居合わせた人たちが顔なじみになり、自分の困りごとを安心して打ち明けるような「居場所」になったのです。公営住宅に単身で住む80代の女性は、そこで知り合った周辺地区に住む女性の困りごとを聞き、その女性を気にかけて身近なお世話をするようになりました。女性の困りごとが軽減されただけでなく、誰かに必要とされることで80代の女性にもやりがいが生まれました。この事例は、ゆるやかなつながりがコミュニティ再生の糸口になる可能性を示しています。
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