耳はどうして2つあるのか? 片耳難聴の世界を紐解く
一側性難聴
左右どちらかの耳に難聴を抱えている状態を「一側性難聴」といいます。日本では、少なくとも36万人が一側性難聴を抱えているとされています。ただし、自覚があっても病院に行かない人や、そもそもそれが障害であると思っていない(思いたくない)人、あるいは自分が一側性難聴を抱えていることを周囲に明かせない人もおり、正確な人数はわかっていません。また、一側性難聴は両耳難聴とは異なり「聞こえる人」として扱われるため、公的な支援は一切受けられないのが現状です。
困難を感じるケース
一側性難聴があっても、日常的な環境であれば特に問題を感じない人が大半ですが、例えば、友人と話しているときに、聞こえにくい耳の方から話しかけられると会話に困難が生じます。また、人は左右の耳が感じる音の大きさや、音が届く時間の微妙な差を認識することで、音が発生している方向を特定しています。このように、両方の耳が聞こえるからこそ得られるメリットを、「両耳聴効果」といいます。一側性難聴を抱える人はそれが得られないため、例えば、周囲がガヤガヤとうるさい場所、どこから音がしているかがわかりにくい場所では、途端に困難を感じることになります。
聞こえの多様性を示す
なかなか実態が捉えにくい一側性難聴ですが、近年では学術的な研究も行われるようになりました。例えば、当事者へのアンケート調査や聞き取り調査を行い、当事者がどのような困難を感じ、どのような支援が効果的なのか、また児童の言語発達にどのような影響を及ぼすのかといったことを明らかにしようとしています。現代社会では多様性が尊重されるようになりました。聴覚においても「聞こえる人」「聞こえない人」に二分されるのではなく、「片耳しか聞こえない人」「片耳がよく聞こえない人」もいます。このように聞こえにも多様な形があることを社会に理解してもらい、一側性難聴があってもそうでない人と同様に幸せに暮らせる方法を探すことは、一側性難聴研究の大切な意義なのです。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
群馬パース大学 リハビリテーション学部 言語聴覚学科 講師 岡野 由実 先生
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