聴覚障害や吃音のある人を支える「音声コミュニケーション科学」
音のメカニズム
音は、さまざまなものが振動し、空気を伝わって伝播する波動であり、またそれを耳が感じることで生じる聴覚的な感覚を意味します。同じ音でも、聞く人によって感じ方は異なります。耳に入った音は鼓膜を振動させ、その振動を中耳にある耳小骨が増幅し、蝸牛(かぎゅう)という器官に伝えます。蝸牛が振動を電気信号に変換することで脳が音を認識するのですが、そのプロセスに問題があると、伝音性難聴や感音性難聴といった障害が起こります。こうした聴覚や発語に障害のある人たちの意思疎通を支える学問を「音声コミュニケーション科学」といいます。
環境音を聞きやすくする
街中には、喧騒や風切り音といった「環境音」があふれていますが、聴覚障害のある人にとっては認識することが困難です。ある研究で、聴覚障害のある若者にさまざまな環境音を聞いてもらい、どの程度聞き分けられるかを調べました。すると電車がホームに入る音や学校のチャイムなどは正答率が高く、ATMの操作音やエレベーターの到着音などは正答率が下がりました。つまり、学生に身近な音ほど聞き取りやすく、そうでない音は聞き取りにくいのです。こうした実験結果を応用すれば、環境音を聴覚障害のある人にとって聞き取りやすくデザインすることもできるでしょう。
吃音の原因を可視化する
声をうまく発することができない吃音(きつおん)は音声言語の症状のひとつです。吃音は連発(こここんにちは)、伸発(しーーーつれいします)、難発(…〈声が出ない〉)といった種類に分けられます。吃音は成長とともに軽減されるケースもありますが、約100人に1人は大人になっても残るとされています。
脳の中には弓状束(きゅうじょうそく)という言語機能に関係する神経回路があり、脳のブローカ野とウェルニッケ野という部分と接続されています。吃音は、その接続性が低下することが原因のひとつと考えられており、近年、MRIを使ってこの接続の状態を可視化する研究も行われています。
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筑波技術大学 産業技術学部 産業情報学科 准教授 安 啓一 先生
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音声コミュニケーション科学、音響学先生が目指すSDGs
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