工学技術で耳の聞こえの仕組みを解明し、耳鼻咽喉科領域に貢献
診断・治療を助ける工学技術
「医工連携」という言葉もあるように、これまで医学・工学分野ではさまざまな分野で協力し合い、研究開発を行ってきました。耳鼻咽喉科の領域でも研究は進んでおり、例えば耳の聞こえに関しては、コンピュータを用いて聴覚器官の機能を解析し、病気の見きわめや治療アドバイスなどに役立てています。
耳の内部をバーチャルに再現
人が音を聞くときには、外耳道を通ってきた振動が鼓膜を揺らし、それが鼓膜の奥の耳小骨に伝わり、さらにその奥の蝸牛(かぎゅう)へと到達します。こうした器官のほとんどが頭がい骨の中にあり、また、鼓膜の振動はナノレベルと非常に小さいため、従来、聞こえのメカニズムを解明するのは困難でした。
そこで工学分野では、鼓膜や耳小骨、蝸牛といった各器官の重さや硬さなどを計測し、コンピュータ上にバーチャルな聴覚器官を再現しました。これを用いることで、各器官の大きさ・重さの違いが聞こえに及ぼす影響や、器官のいずれかに硬化などの異常がある場合の聞こえ方、また、病気別に現れる特徴の違い、さらには最善の手術法・治療法まで、条件に合わせたシミュレーションができるようになり、明確なデータを医師に示すことも可能になりました。
骨の振動で音を聞く新技術
聞こえの技術について言えば、近年、新たな人工聴覚システムとして研究が進んでいるのが「骨導補聴器」です。これは、小さな振動子を耳の後ろの皮膚の下に埋め込み、電磁力を利用して外から振動子に信号を送り、骨を振動させて補聴するという仕組みです。このため、外耳道閉鎖症、あるいはけがなどで耳介や鼓膜を失った人でも補聴できます。また、高齢になると高音が聞こえづらくなり、その結果、言葉の子音が聞こえにくくなりますが、骨導補聴器は通常のものと比べ、高音域まで明瞭に聞こえるため、日常会話はもちろん、音楽も豊かな音響で楽しめます。現在は試作段階ですが、近い将来、実用化されれば多くの人に役立つ技術となることが期待されています。
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先生情報 / 大学情報
電気通信大学 情報理工学域 II類(融合系) 計測・制御システムプログラム 教授 小池 卓二 先生
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