分子の「お見合い」で新しい原理を発見! ナノテクノロジーの最前線
くっついたり離れたり、弱い相互作用がおもしろい
化合物Aと化合物Bを試験管に入れて反応を見ることを、「お見合いをさせる」と言ったりします。実際に分子と分子が好きあって近づいたり、嫌いあって離れていったり、他の原子や分子を呼んで和気あいあいと並んだりする様子が見られるのです。分子(原子)と分子(原子)の結合に先駆けて起こるこうした反応を「非結合相互作用(弱い相互作用)」といいます。化学反応の初期段階だけではなく、わたしたちが味を感じるときや、薬が体内に取り込まれるときなど、様々な場面で分子間の弱い相互作用が働いています。
新しい原理の発見からさらなる成果へ
分子の弱い相互作用を解明し、新しい結合の形や仕組みを発見して一般化することは、分子を扱うさまざまな研究に役立ちます。例えば、複数の原子が直列するこれまでにない有機化合物を作って、結合の仕組みを明らかにした研究は、生体内で有機化合物が姿を変えながら働く「触媒回転」を解明するきっかけとなりました。発がん性物質のもとになる活性酸素を無毒化する仕組みとして、体内に微量に存在するセレンという元素が触媒となって働いている仕組みがわかるきっかけとなったのです。この発見は甲状腺ホルモンの病気を治療する薬の開発にもつながりました。
計算で実験をリードせよ
有機合成化学の研究には「分子設計」「合成実験」「機器分析」という3つの柱があります。化合物を合成する実験は試験管やフラスコの中で行いますが、原理の解明にはコンピュータによる計算が欠かせません。以前は研究の要点計算を専門家に依頼するのが一般的でしたが、高性能なマシンの普及により有機化学者自身が実験に先立って計算することが可能となりました。分子の特性を予測して材料を選ぶところから、実験のシミュレーション、モデル解析まで、すべての行程を計算で先導する研究スタイルが一般的になりつつあります。実験の回数を減らすことができ、研究のスピードが劇的に早まりました。
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先生情報 / 大学情報
和歌山大学 システム工学部 システム工学科 応用理工学領域 化学メジャー 教授 林 聡子 先生
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