お金というメディアが、なぜ環境問題につながるのか?
人と人のあいだを媒介するお金
社会学では、コミュニケーションを媒介するものを「メディア」と捉えます。声や活字、貨幣(お金)もその一つです。
中世の人々は狭い共同体の中で身分制に縛られ、物々交換をして暮らしていました。その社会に貨幣が入り込むことで、人々は共同体の外へ出て貨幣と物を交換し、生活する場所も職業も自由に選べるようになりました。貨幣は人と人を媒介するメディアであり、近代的な「個人」の誕生に大きくかかわったのです。貨幣と社会の関係を論じたドイツ人の社会学者ゲオルグ・ジンメル(1858-1918)の理論を学ぶと、現代人はこうした歴史の延長線上に生きていることがわかります。
持続可能性を失わせる欲望のメディア
私たちは貨幣が持つ価値を互いに信用して取引することで、経済や社会を発展させてきました。金貨が電子マネーに変わっても、その本質的な構造は中世も現代も変わりません。しかし、現代社会に生きる私たちはこうした商取引を無制限かつグローバルに拡大させ、大量生産・大量消費を続けています。持続可能性を損ない、地球環境の危機を招く私たちの社会の根源には、貨幣という欲望のメディアが潜んでいるのです。
お金との付き合い方に倫理的なストッパーを
環境問題や富の格差など、現代の社会的課題を解決していくには過去の社会学者たちが論じた理論を知り、個人と社会や歴史とのかかわりを捉える「社会学的想像力」が必要です。私たちは社会の一員としてどのような人間になっていこうとしているのか、今まさに問われています。「自然を一方的に消費する人間」というあり方を乗り越えるために、私たちはそろそろお金との付き合い方に倫理的なストッパーを設けなければなりません。利息を生まない貨幣運用制度や金融商品の売買を対象にした課税制度など、「お金の仕組みの再設計」を提起する社会学者も現れました。社会学は、より豊かな未来をつくる選択肢を見い出す学問なのです。
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