化粧品広告から見えてくる、「女性美」と「社会」の変遷
女性美を表現する4つの要素
今も昔も、街中や雑誌などにはさまざまな化粧品広告が存在してきました。それら約6千点を年代ごとに分析すると、用いられる言葉やビジュアルなどから4つの要素が浮かび上がってきます。まず、配合成分やその美容効果をうたった「科学」的なもの、2つ目は、女性の美しさを花や太陽などの「自然」と関連づけたものです。3つ目は、海外のモデルや風景のような非日常的なモチーフを使って「他者性」を表したもの、4つ目は、身近な生活シーンや日本人モデルなどで「私性」を表したものです。これらの要素のいずれかを強調したり、複数を組み合わせたりしながら、化粧品広告は「女性美」を表現してきました。
時代によって変わる広告戦略
今でこそ海外でも人気の日本製化粧品ですが、戦前の日本は発展途上にあり、化粧品は高級品という「他者性」が強調されました。同時に国民の文化度を高めるべく、化粧が清潔・健康といった衛生にかなうことを科学的に訴求する広告も目立ちました。生活水準が上がった1960年代には、「他者性」や「科学」は薄れ、公害などの社会問題の影響から「自然」を象徴的に取り入れた表現が台頭します。80年代には肌の悩みに対して有効成分をアピールする傾向が強まり、女性美は「科学的に作れるもの」に変容しました。2000年代以降は、親しみやすいタレントを起用して「私性」に訴えかけたり、「科学」が「自然」を取り込む形で、自然由来の成分を打ち出したりする広告が増加しています。
女性たちの感覚・意識も反映
広告戦略は社会情勢のほか、その時代の女性たちが無意識に感じている先入観や消費動向なども反映しながら作られます。私たちが持っている女性美のイメージは、広告というメディアと女性たち自身の感覚や行動との循環関係によって生み出されていると考えられます。その関係性を分析することは、今後のより効果的な広告戦略に活用できるのはもちろんのこと、社会の動きを推し量る物差しにもなるのです。
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関西大学 総合情報学部 総合情報学科 教授 谷本 奈穂 先生
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