ゴミ屋敷はなぜできる? 「健康社会学」からのアプローチ
健康社会学とは何か
体調が悪くて病院を受診しても、はっきりした原因がわからないことがあります。そのようなときは生物学的・医学的要因ではなく、心理的また社会的な要因が影響しているかもしれません。また、健康や生活上の問題を抱えている人たちが暮らしにくい状況は、医療や福祉制度のあり方や、その人を取り巻く文化や社会的環境で作り出されていることもあるでしょう。このように、人々の健康や福祉、QOL(Quality of Life:生活・生存・人生の質)に関する問題を社会的、心理的、文化的、制度的な観点から理解しようとするのが「健康社会学」です。
ゴミ屋敷問題の背景にある「セルフネグレクト」
自分の健康と安全の維持に必要なものや支援を、自ら放棄している状態を「セルフネグレクト」と言います。一例が、居住者が自ら生活環境を悪化させる、いわゆる「ゴミ屋敷」の問題です。このような場合、ただゴミを撤去すればよい、というものではなく、なぜゴミを集めて溜め込んでしまうのか、その背景や要因を探ることが重要になってきます。「居住者に認知症など病的な理由があるのか」「配偶者を亡くしたなど孤独感によるものなのか」「完璧主義がゆえに分別できずにゴミが溜まってしまっているのか」など、状況や理由によって取るべき対応は違ってくるのです。
世の中の問題を身近な問題としてとらえる
近所にゴミ屋敷があれば、迷惑だと思う人が大半かもしれません。しかし、ゴミ屋敷に代表される「セルフネグレクト」の状態は、一部の人だけが陥りやすい問題なのかというと決してそうではありません。高齢になって認知症や一人暮らしになったときには、誰もがそうなってしまう可能性はあるのです。ですから、「厄介な問題」として排除するのではなく、自分の問題として考えられるようになれば、社会も少しずつ変わってくるでしょう。
このように問題のメカニズムを発見し、解決策を世の中に広く示していくことが、健康社会学の大きな役割なのです。
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先生情報 / 大学情報
東京都立大学 都市環境学部 都市政策科学科 准教授 杉原 陽子 先生
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