インド社会の身分制度の中で、尊厳と平等を求める人びと
「不可触民」とされる人びと
インド社会に関して、ヒンドゥー教における身分制度とされる「カースト制度」の存在を指摘することができます。その大きな枠組みとして、バラモン(司祭)、クシャトリヤ(王侯・軍人)、ヴァイシャ(平民)、シュードラ(隷属民)と4つの階層があり、時にその枠外や下位に位置づけられるのが「不可触民」とされる人びとです。彼らは厳しく差別された「被差別民」で、清掃業や食肉業などの教義上不浄性が強いとされる職業に多く従事してきました。やがて1950年に制定されたインド憲法によって、「不可触民制」は廃止が謳われ、カーストに基づく差別も禁止が明記されました。しかし、長く日常生活に根づいてきた意識と慣習ということもあり、地域によって濃淡がありながら、いまもインド社会に残存しています。
解放を目指す「不可触民」たち
インドの独立以降、「ダリト(抑圧された者)」と自称する不可触民や、家族や親族単位で仏教に改宗する不可触民のすがたを認めることができます。きっかけは、B.R.アンベードカルという人物による解放運動です。不可触民の出自をもつアンベードカルは、その高い能力から、アメリカとイギリスに留学して博士号を修得しました。インド帰国後は不可触民解放運動を強力に導き、独立後はインド憲法の起草委員会委員長や初代の法務大臣を務めました。
彼は晩年、仏教に改宗しました。ヒンドゥー教の枠の中で、自由や平等、尊厳を求める運動の限界を感じたからといわれます。仏教への改宗は、いくつかある解放運動のひとつのかたちになります。仏教へ改宗したダリトとは、偉大な指導者だったアンベードカルを崇敬し、その遺志を継いでいる人たちなのです。
変わるインド社会
近年では、経営者や起業家、政界に進出する不可触民の人びともいます。インドでの、不可触民の占める割合は人口のおよそ17%とされ、決して小さな割合ではありません。不可触民とほかのカースト出身者との、関係性の変化やその影響は、今後のインド社会を知るうえで見逃せません。
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