ゲノム編集トマトをめぐる対立に、文化人類学からのアプローチ
ゲノム編集農作物の登場と対立
近年、世界的に農産物の収穫量が減ってきているなか、解決策としてバイオ技術が注目を集めています。バイオ技術によって生み出された農作物には、遺伝子組み換え食品やゲノム編集食品があり、国が積極的に進めたいと考えている一方、反対する人もいます。2021年には、日本でゲノム編集の技術を使ったトマトの販売が承認されました。「ゲノム編集をしたかどうか確認する技術的方法はない」という国と、「安全が保証された農作物などない」という開発者側と、「ゲノム編集は危険だ」という消費者団体がいます。そうした衝突の根底には何があるのでしょうか。
科学的な正しさを「伝道」するだけでは
新しい科学技術を社会に広めたいとき、専門家は科学的な知識を伝えることで説得しようとしがちです。しかし、消費者の声をよく聞いてみると、「時間をかけて品種改良するのはいいけど、急激に変化させることに危機感を感じる」という自然観を持っていることがわかります。「科学的な正しさ」と「自然観」がぶつかってしまうと、お互いにわかり合えないままでしょう。
そこで、科学的知識を押し付けるのではなく、希望する人たちに無料でゲノム編集トマトの苗を配り、食べる人が自ら育て、栽培情報をオンラインコミュニティで共有し、収穫し、自然に触れながらなじんでもらったことで、ゲノム編集トマトも少しずつ受け入れられつつあります。
相手を深く知ろうとする
文化人類学は、実際に現地に行ってみる、インタビューをしてみる、自分でやってみるなど、自分の体を使って調べて、自分にないものを深く理解しようとする学問です。自分と違う異文化についての知識を蓄えるというよりも、他者を知って自分のそれまでの「あたりまえ」をひっくり返す、そのことこそが文化人類学の醍醐味です。
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