講義No.13152 社会学

ゲノム編集トマトをめぐる対立に、文化人類学からのアプローチ

ゲノム編集トマトをめぐる対立に、文化人類学からのアプローチ

ゲノム編集農作物の登場と対立

近年、世界的に農産物の収穫量が減ってきているなか、解決策としてバイオ技術が注目を集めています。バイオ技術によって生み出された農作物には、遺伝子組み換え食品やゲノム編集食品があり、国が積極的に進めたいと考えている一方、反対する人もいます。2021年には、日本でゲノム編集の技術を使ったトマトの販売が承認されました。「ゲノム編集をしたかどうか確認する技術的方法はない」という国と、「安全が保証された農作物などない」という開発者側と、「ゲノム編集は危険だ」という消費者団体がいます。そうした衝突の根底には何があるのでしょうか。

科学的な正しさを「伝道」するだけでは

新しい科学技術を社会に広めたいとき、専門家は科学的な知識を伝えることで説得しようとしがちです。しかし、消費者の声をよく聞いてみると、「時間をかけて品種改良するのはいいけど、急激に変化させることに危機感を感じる」という自然観を持っていることがわかります。「科学的な正しさ」と「自然観」がぶつかってしまうと、お互いにわかり合えないままでしょう。
そこで、科学的知識を押し付けるのではなく、希望する人たちに無料でゲノム編集トマトの苗を配り、食べる人が自ら育て、栽培情報をオンラインコミュニティで共有し、収穫し、自然に触れながらなじんでもらったことで、ゲノム編集トマトも少しずつ受け入れられつつあります。

相手を深く知ろうとする

文化人類学は、実際に現地に行ってみる、インタビューをしてみる、自分でやってみるなど、自分の体を使って調べて、自分にないものを深く理解しようとする学問です。自分と違う異文化についての知識を蓄えるというよりも、他者を知って自分のそれまでの「あたりまえ」をひっくり返す、そのことこそが文化人類学の醍醐味です。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

二松学舎大学 文学部 都市文化デザイン学科 准教授 土井 清美 先生

二松学舎大学 文学部 都市文化デザイン学科 准教授 土井 清美 先生

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文化人類学

メッセージ

大学は、さまざまな出会いがある場所です。私は高校生のときは勉強が苦手でしたが、大学に入って良い先生、良い本、刺激しあえる仲間に出会えたことで変わりました。今は勉強が苦手でも、大学に入ってから好きなことに出会えることもあります。例えば文化人類学は、常識、当たり前といわれることに「本当にそうかな?」と疑問を持ち、捉え直していく学問です。そうした疑問を持てるなら、きっと文化人類学に向いていると思います。高校ではなじみのない学問かもしれませんが、興味を持ってもらえたら嬉しいです。

二松学舎大学に関心を持ったあなたは

二松学舎大学は1877年、漢学者である三島中洲によって創設されました。漢学を通じて東洋の精神文化を学び日本人としてのアイデンティティを確立した、知的、道徳的な社会を支えるに足る人材の育成を目指しています。
日本の伝統的なよさを認識しつつ、グローバルな視点で理解し、世界に向けて発信できる人材の育成に力を注いでいます。
キャンパスは都心の真ん中にある九段キャンパスと千葉県柏市にある2つのキャンパスがあり、現在では入学から卒業までの4年間を九段キャンパスで過ごすことができます。