非ネイティブの日本語学習から日本語の特性を再発見する
生活の中の言語研究
社会的な要素と言葉の関わりを分析するのが「社会言語学」です。この一分野である「ミクロ社会言語学」は、コミュニケーションの中で用いられる言葉を対象に、コミュニケーションが行われる場面や、会話参加者の人間関係などが言語使用に与える影響などを分析します。人間関係が言語に反映される一番わかりやすい例としては、「敬語」が挙げられます。
非ネイティブの日本語習得
日本語は、話題となっている情報は「誰の」ものなのか、という「情報のなわ張り」を言語で明示する特徴があると言われています。この「なわ張り」を示す代表的なものが、終助詞の「ね」です。たとえば、「あなたは背が高いですね」のように、情報が相手のなわ張りにあると話し手が判断した場合には、必ず「ね」を使いますね。しかし、英語や中国語の場合、情報のなわ張りを言語で明示することはあまりありません。したがって、「あなたは身長が高い”です”」のように断言することが可能です。このことから、日本語を母語としない人には、終助詞「ね」のような情報のなわ張りを示す言語表現の習得が難しいのではないかという仮説が生まれます。そこで、普段日本語ネイティブと話す機会のない台湾人の日本語学習者10人に、日本語ネイティブとの会話を継続してもらい、日本語学習者の「ね」の変化を調査しました。
ネイティブらしい表現に近づく
調査では、初回と最終回に音声会話、その間に1回1時間、合計12回の文字チャットをしてもらいました。その結果、台湾人の日本語学習者の「ね」の使用頻度は高くなりました。しかし、通常「ね」をつけない「台湾は寒いですね」といったような、自分だけのなわ張り(=相手のなわ張りではない)情報にも、「ね」をつけることが増えました。このことからは、ネイティブは「ね」をよく使うということは伝わったものの、厳密な「ね」の使用方法はまだ習得していない可能性がわかります。こういった調査から、それぞれの言語に関わる文化やコミュニケーションの特徴を考えることができます。
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