なぜ、方言は生まれるのだろう?
三重県人との約束に注意!?
三重県の人が県外の人と「しあさって」に会う約束をしたとします。ところが当日、二人は会えませんでした。なぜなら三重県の人は、「しあさって」を3日後ではなく、4日後だと思ったからです。三重県の方言では、「あす」「あさって」「ささって」「しあさって」という数え方をしています。このような数え方をするのは、現在、三重県や岐阜県の飛騨地方、富山県など帯状の地帯だけです。昔はもっと広い地域で使われていましたが、時代と共に「あさって」の次の日を「しあさって」という呼び方が広まっていったのです。
「ささって」の「さ」の意味とは?
では、なぜこの地域にだけ「ささって」という方言が残ったのでしょうか。この地域の人たちが、1日後を「あす」、2日後を「あさって」、3日後を「ささって」、4日後を「しあさって」というように、「さ=3」「し=4」と解釈して使い続けたからでしょうか。それも論理的な考え方ではありますが、学術的には正しくありません。国語学から見ると、「さ来年」や「さ来週」のように「さ」も「し」も同じ「その次の」という意味を表すからです。おそらく「あさって」の次、ということで「さあさって」と言うようになり、それが縮まって「ささって」へと語形が変化したと考えられます。
暮らしの中で生き続ける方言
新しい言葉が入ってきても、古くから使われていた言葉が残り続けて、方言になります。文化の中心地から遠いほど古い言葉が残るという規則性があり、それを民俗学者の柳田国男は「方言周圏論」として提唱しました。また、その地域での使い分けが必要な場合にも方言が生まれます。同じく三重県で魚のカンパチを呼ぶ場合、地元で消費する小魚を「もじゃこ」、市場に出荷する大きなものを「しお」と呼び分けることなどがよい例です。
方言の語源や分布域、なぜその範囲で使われているかを調査・分析し、暮らしと言葉の使い方の関連性を探究しながら、社会言語学では言葉の多様性・文化の多様性を明らかにしていきます。
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皇學館大学 文学部 国文学科 教授 齋藤 平 先生
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