方言・ことば使いの多様性から見えてくるもの

ことばで地域の文化圏を可視化
関西方言の否定表現には「セン」「セーヘン」「シヤン」など、多くの言い方があります。現地の人に言い方を教えてもらい、データを集計したり、地図化したりすると、そのことばが共有されるエリアが見えてきます。例えば、「~ン」は兵庫の神戸以西、「~ヘン」は大阪、「~ヤン」は三重・和歌山で使われています。ただし、その分布領域は行政区画と一致するものではありません。そこに、行政区画とは違う、ことばを共有する文化圏が想定されます。その文化圏形成の謎を解きたくて、地域社会の歴史文化と方言との関わりを研究者たちは探り始めるのです。
ことばから観察する「地域の感性」
関西弁に「ヨル」ということばがあります。「コケヨッタ」の場合、神戸から西の地域では「転びそうだった」という意味ですが、京阪の中央部ではこけた人を嘲る意味があります。しかし、「こけやがった」のように強い嘲りではありません。また、嘲る意味はないけれど、動作主が「目下」であることを表す用法もあります。さらに、阪神ファンが「今日、阪神勝ちヨッタで!」と嬉しそうに言うこともあります。この繊細な用法を持つ「ヨル」ということばで、京阪人はどのような感情や対人関係を表現したいのでしょうか。「ヨル」の用法分析は、微妙な感情や対人関係のあり方の分析なのです。
ことば使いの「多様性」も面白い!
愛知県の岡崎市で実施されたことば使いの経年調査に、「レジでお釣りが間違っていたことに対してどう言うか」という質問項目があります。1950年代は「ぼやぼやするな」と強い口調で非難する人が約10%弱程度いました。1980年代になると非難する人の割合は減っていき、2000年代にはほぼ誰も非難しないという結果になりました。日本人の物言いは半世紀かけて上品になったのでしょうか。それとも対人関係が希薄になって「何をされるかわからない」という恐怖心から無難なことばを選ぶようになったのでしょうか。ことば使いのあり方にも、興味深いテーマが隠されています。
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甲南大学文学部 日本語日本文学科 教授西尾 純二 先生
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