イルカやクジラには、食べ物の味を感じる能力がない?
動物が感じる5種類の味覚
地球上の動物の多くは、食物を食べる時に、甘味、苦味、酸味、塩味、うま味という5種類の味覚を感じる能力を持っています。しかし、動物が生息している環境などによって、それらの味覚を感じる能力には差が生じてきます。環境に適応していく過程で、特定の味覚を失ってしまった動物もいるのです。
海での生活に適応したイルカやクジラ
海に生息するイルカやクジラなどの哺乳類は、魚などを食べる際、咀嚼(そしゃく)せずに海水ごと丸飲みにします。彼らの遺伝子を分析すると、甘味、苦味、酸味、うま味の味覚に関わる遺伝子は変異していて、それらの味覚は働かなくなってしまっていることがわかりました。塩味に関わる遺伝子は変異していませんが、それは口の中ではなく、腎臓で海水をろ過する際に塩分を感知するために働いていました。つまり、イルカやクジラは何かを食べても、それらを味わっておいしいと感じることはほとんどないのです。その代わり、イルカなどは一度丸飲みにした魚を吐き出してまた飲み込むなどしており、ある種ののどごしを楽しんでいるのでは、という説も考えられています。
ラッコは海に適応しきれていない?
同じ海に生きる哺乳類でも、ラッコは味覚に関わる機能を維持していることがわかっています。主に緯度の高い寒冷な地域に生息するラッコは、皮下脂肪があまりないことによる体温低下をカバーするために、1日に体重の2~3割に相当する量のえさを食べます。イルカやクジラなどと違ってラッコはえさをしっかりと咀嚼して食べることもあり、おいしさを感じることで食欲を増進させられるように、味覚を保持しているのではないかと推測されています。
ラッコが海で生きるようになったのは500万年前くらいと考えられていますが、イルカやクジラが海に現れたのは約5000万年前と推測されています。数百万年後の遠い未来には、ラッコの味覚にも変化が生じて、味の違いがわからなくなってしまっているのかもしれません。
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関東学院大学 理工学部 理工学科 生命科学コース 教授 海老原 充 先生
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