風の作用を明らかにして、橋の安全を守る「風工学」
風による橋の崩壊
風と構造物の相互作用によって引き起こされる振動が、その構造物に大きな被害を与える場合があります。例えば1940年にアメリカのタコマナローズ橋の落橋事故がありました。この橋は当時の最先端の技術が用いられていましたが、わずか風速19m/秒の風で大きな揺れが発生して崩壊に至りました。
それ以降、長大橋の設計においては、橋梁周りの風の流れとその橋梁への影響を詳細に調査して安全性を確認するようになりました。明石海峡大橋では全長40mの全橋模型を使った風洞試験でタコマナローズ橋のような振動が生じないことを確認しています。
構造設計に欠かせない風工学の知識
構造物の設計では、風に対して十分に安全であることを確認します。そのために必要なのが「風工学(耐風工学)」の知見です。風工学では、橋の模型を使った風洞実験や数値シミュレーションを通じて、風の作用や構造物との連成現象について研究しています。風による構造物の振動現象は複雑ですが、いくつかの振動パターンがあります。構造物の振動と構造物の下流にできるカルマン渦による空気力が共振して起きる「渦励振」、構造物の振動によって増加する空気力によって振動がさらに大きくなる「フラッター」などがあり、タコマナローズ橋の崩壊の原因となったのは、ねじれフラッターと呼ばれる振動現象だったことがわかっています。
より安全で経済的な橋を作るために
技術的には明石海峡大橋より長い橋も実現可能ですが、橋が長くなると相対的にフレキシブルな構造になるため風の影響を受けやすくなります。風と構造物の現象について研究が進むことで、より安全な橋を低コストで架けることができるようになります。
例えば、風洞実験で設定条件を細かく変化させて測定することで、滑らかに変化すると考えられていた現象でも、特異な値を示す場合のあることが分かり現象の解明が進むこともあります。風工学にはその他にも、風力発電、風環境、空力騒音など多様なテーマがあり、多くの人に取り組まれることが求められています。
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