金属材料の性質をコンピュータシミュレーションで解明

金属材料の性質をコンピュータシミュレーションで解明

高強度マグネシウムのギザギザ構造の謎

マグネシウムは構造用金属材料の中で最も軽く、埋蔵量も豊富な金属です。このため、航空機や自動車などの輸送分野や、ノートパソコンや携帯電話などの小型電子機器への活用が期待されていますが、一方で強度が低いという欠点があります。そんな中、鉄やアルミに引けを取らない強度を持つマグネシウム合金が、20年ほど前に日本で開発されました。しかしなぜ高い強度が得られるのかには不明な点も多く、そのメカニズムを解明する研究が進められています。
このマグネシウム合金を電子顕微鏡で観察してみると、非常に珍しい構造を持つことがわかりました。ミクロの世界で観察すると、このマグネシウム合金は特殊な層状構造を持っており、その層状構造がさらにキンクと呼ばれるギザギザの構造になっているのです。

シミュレーションでメカニズムを解明

数十マイクロメートルほどのキンクがあるとなぜ強度が高くなるのでしょうか。このような微細な構造について調べるのに活躍するのがコンピュータシミュレーションです。数十マイクロメートルスケールの材料のモデルをコンピュータで作り、そこでどのようなことが起こっているのかシミュレーションで調べていきます。その結果、本来マグネシウムは構造の「層」に沿って変形しやすい性質を持つのですが、キンクがあることによって変形に対する抵抗が生まれ、これが強度の向上につながるというメカニズムが明らかになってきました。
さらにシミュレーションを使って、キンクの数やキンクの間隔と強度との関係などを詳細に調べることが可能になります。

材料科学に不可欠なシミュレーションと実験

シミュレーションによる理論の構築と実験は、材料科学の研究の両輪といえます。これまで培われてきたシミュレーション技術を現場のものづくりにフィードバックし、実験をする前に材料の特性が予測できるようなシミュレーション技術の開発を進めることによって、新たな材料の創成やものづくりの技術力の向上へとつながることが期待されています。

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先生情報 / 大学情報

佐賀大学 理工学部 理工学科 機械工学部門 教授 只野 裕一 先生

佐賀大学 理工学部 理工学科 機械工学部門 教授 只野 裕一 先生

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機械材料、材料力学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私は高校時代、大学では理論物理学を学びたいと思っていました。その後、ロボットやロケットの開発が面白そうだと思っていた時期もあります。結局大学では機械系の学科に進み、当初は実験系の研究をしたいと考えていましたが、3年生で初めて触れたシミュレーションの面白さに魅了され、最終的にその道に進みました。このようにいつどこで人生のターニングポイントがあるかわかりません。あまり早いうちから将来の道を決めなければという強迫観念を持たずに、面白そうだと思ったことにはアンテナを張ってどんどんトライしてみてください。

佐賀大学に関心を持ったあなたは

佐賀大学は、教育・芸術地域デザイン・経済・医・理工・農の6学部からなる総合大学です。キャンパスは本庄地区と鍋島地区に分かれ、どちらも緑溢れるのどかな環境にありながら、九州の中心地である福岡へJRで約30分で行けるアクセスの良さです。本学は学生生活から就職活動、さらには就職後まで「面倒見の良い」教育を進め、卒業生が愛校心を持ち続ける教育を実践し、学生に選ばれる大学をめざしています。研究面においては、産官学共同研究を中心に、中央の大きな大学にも負けない特色ある研究テーマへの取組みを推進しています。