時代とのリンクや海外文学の影響から三島由紀夫を考える
多角的な作家・三島由紀夫
三島由紀夫は戦後の日本を代表する作家の一人として知られています。彼がノーベル文学賞の候補になっていたことも近年明らかになりました。三島は、当時としては珍しくさまざまなメディアに露出した作家という意味でも特異な存在でした。ボディービルにのめり込み、鍛え上げた肉体を写真集『薔薇刑』で披露したほか、晩年は「楯の会」という団体を軸に政治的な活動も展開していきました。三島を捉えるためには、作家としてだけでなく、多角的な視点から考えていく必要があります。
同時代の社会状況の接点を探る
文学研究では小説を精読して、作品の中で言葉がどのように機能しているのか、言葉と言葉のつながりを丁寧に読み解きます。この基本的な作業に加えて、言葉が小説の外の出来事、その時代の動きや社会状況とどのような関連があるのかを探り、作品を重層的に読んでいきます。例えば1954年に発表された三島の小説『潮騒』は、古代さながらの眺望を備えた伊勢湾の孤島が舞台です。本作が発表された年は、日本が神武景気に沸き、白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫を「三種の神器」と呼ぶなど、神話になぞらえる動きがありました。小説のキーワードである古代や神話と、同時代の社会状況の間にリンクがみられるのです。
読書歴から他作品の影響を探り出す
小説は同時代の状況のみならず、ほかの作品ともつながっています。三島の蔵書目録を調査して彼の読書歴を明らかにすることで、作品を書く際に参照していた意外な小説に気づくことがあります。例えば、晩年に発表された『春の雪』は、これまでは『源氏物語』や『更級日記』、『浜松中納言物語』などの日本の王朝文学との関係性が注目されてきました。しかし彼の読書歴をたどることで、フローベルの『ボヴァリー夫人』やラクロの『危険な関係』など、不倫を描いた海外の小説の影響も強く受けていることが明らかになりました。このように作品間のリンクを見つけ出すことは、小説を多角的に考察する上での大切な手段です。
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