平安時代からすでに「奈良は日本の心のふるさと」だった!

平安時代からすでに「奈良は日本の心のふるさと」だった!

「奈良」のイメージを考える

あなたは、奈良にどのようなイメージを持っていますか?
平安時代にまとめられた『伊勢物語』の第1段には、奈良を訪れた男が、うらぶれた里で思いがけず美しい姉妹に出会い、みやびな歌を詠んだという話があります。これを読むと、平安時代の貴族は、奈良を古い時代の都であり、今では華やぎや活気はないけれども、自分たちの原点として価値のある場所だととらえていることがわかります。では、彼らはなぜそうとらえたのでしょう。

歴史の出来事をヒントに

そのことを考えるヒントになるのが、平安時代初期に起こった「薬子の変」または「平城太上天皇の変」と呼ばれる出来事です。平安京をつくった桓武天皇の後、平城天皇が即位しますが病弱だったことから弟の嵯峨天皇に皇位を譲り、旧都・平城京に移り住みます。しかしその後、平城上皇を中心に奈良に都を移そうとする気運が高まり、「二所朝廷(ふたところのみかど)」といわれる対立が生じましたが、嵯峨天皇が上皇側の動きを阻止し、平安京こそが永遠に続く都「万代之宮(よろずよのみや)」であると宣言して事態を収束させました。

一極集中を緩和する存在としての役割

この出来事を経て平安貴族たちは、都を危機に陥れようとした平城天皇に、遠い過去の人というイメージを与え、『万葉集』の編さんも上皇の時代のことと位置づけます。そのうえで、「奈良こそが自分たちの原点だ」と確認する作業を続けたのです。
そこには、奈良が再び政治の拠点にはなってはいけないという貴族たちの思いとともに、近代における東京と京都のように、平安京と奈良で役割を分担し、都への機能の集中がもたらす弊害を緩和する意味もあったと考えられています。奈良が「日本の心のふるさと」「原点」とみなされるようになった出発点として、今一度、平安時代の奈良を研究するのは興味深いことです。

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先生情報 / 大学情報

奈良女子大学 文学部 人文社会学科 教授 西村 さとみ 先生

奈良女子大学 文学部 人文社会学科 教授 西村 さとみ 先生

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歴史学、比較文化学、国文学

メッセージ

「歴史学」は、自分たちから切り離された「過去の出来事について詳しく知る学問」、そう思っている人も多いかもしれませんが、私は少し違うのではないかと考えています。
過去に生きていた人たちと私たちとは違うところも多いけれど、ある意味では同じようにものを考えたり、感じたりしているのです。そのことを忘れずに、「今の私たちは、一体どうしてこんなふうに生きているのか」を問い直す学問として、歴史を研究していきたいと思っています。ぜひ一緒に学びましょう。

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