古典文学の不思議な物語から、日本の医療の歴史が見えてくる!
治療法が書かれていない医書がある
医学の本には薬の処方や治療法が書かれていると思う人が多いでしょう。日本の中世にも、医書はそのように用いられていましたが、宮中で活躍した医師の惟宗具俊(これむねともとし)が書き上げた『医談抄(いだんしょう)』は、それまでとは全く違う医書でした。
天皇や位の高い人にどうやって薬を飲ませたらいいかなどといった、人間関係を重視した医書だったのです。なぜなら、当時の医者は陰陽師などの祈祷師やと同等とされ、病気は「鬼のせい」と考えられた時代で、体に入った鬼を退治するにはどうするか、どうすれば位の高い人を説得できるかが重要だったのです。また、この医書には、「人面瘡(じんめんそう)」や「産女(うぶめ)」といった妖怪が登場する不思議な説話もたくさん収められています。
古典は価値観の多様性を今に伝えてくれる
戦国時代になると、武将に仕えた医師は、おもしろい話や役に立つ話ができることが求められました。病気は「虫」が原因とされ、「腹の虫」「虫のいどころ」といった言葉が生まれています。
また、日本は明治時代に、東洋医学から西洋医学へガラリと切り替わった珍しい国です。今では西洋医学が当たり前となっていますが、日本の医学の考え方に多様性があったことを古典文学は教えてくれるのです。
当時に生きた人々の思いに触れる古典文学
古典を読み解くと、時代の背景や思想的な変化も見ることができます。土地の由来や物語を今に伝えるのも古典文学です。ある地域には、「雷と人間の子孫である家に、力持ちの女性が生まれる」という短い説話があります。家や地域の素晴らしさを語り継ごうとしたのでしょう。
当時の人々の考えや想像力、日本文化のもつ多様な思想などに触れ、その時代の空気を感じられることも古典の魅力です。古いものに価値を見出す日本に残されているからこそ、今の時代に古典を通してさまざまな人々の思いに触れることができるのです。
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先生情報 / 大学情報
愛知県立大学 日本文化学部 国語国文学科 教授 中根 千絵 先生
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