意欲を持って取り組める作業を通して、認知症患者を支援する
増え続ける認知症患者
認知症になると、同じことを何度も聞いたり、約束を忘れたりするなど、生活の中で小さな失敗を繰り返します。それを周囲に指摘されることで自信を失い、不安やいらだちを感じ、うつ状態になり引きこもってしまうケースもあります。日本の認知症の人は、2025年には高齢者の5人に1人にあたる700万人に達するとされており、その生活支援は大きな社会的課題です。こうした現状に対して、作業療法学の分野では、認知症の人に興味や関心を持てる作業をしてもらうことで、前向きに生活が送れるように支援する研究が行われています。
本人が興味を持てる作業を行う
とはいえ、認知症の人がすぐに自分の興味や関心のあることを話してくれるわけではありません。周囲に心を閉ざす人も多いため、まずは「回想法」といって、これまでの人生や生活を聞き出すことから始めます。そして、例えば長年家族の料理を作り続けてきた人だとわかった場合、家族や支援者が本人の前で料理をし、徐々に料理への関心を高めてもらいながら、最終的には調理作業をしてくれるように促していきます。作業療法の内容は、本人にとって価値や意味がある作業であることが大事で、そうした作業でこそ失われた自信を回復できるのです。
家族への支援も重要
患者さんを支える家族への支援も重要です。まずは、「パーソンセンタードケア」といって、認知症の人本人の立場に立って考える姿勢を身につけてもらうことが大前提です。その上で、適切な介護技能を習得してもらいます。例えばトイレに誘導する際は「ここを持って」と声をかけるだけでなく、持つ場所を握らせて誘導するといったテクニックを身につけることで、介護がスムーズになり、家族の負担も軽減されます。また、こうした技能を持つ作業療法士や介護士といった専門職とのつながりを作ることも重要です。専門職が単に技能を教える存在ではなく精神的な支えにもなることで、家族の介護に関する意欲の向上にもつながるのです。
参考資料
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県立広島大学 保健福祉学部 保健福祉学科 作業療法学コース 教授 西田 征治 先生
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