酪農現場を科学で救う! 乳牛のライフサイクルコントロール
分娩・搾乳を繰り返す乳牛のライフサイクル
乳牛は、分娩(ぶんべん)して初めて乳を出すようになります。その後は常に乳を出すわけではなく、妊娠・分娩・泌乳を繰り返します。この乳牛のライフサイクルをいかにコントロールして健康で効率よく乳量を保つかが、酪農家にとっては重要です。
グレリン分泌を促す中鎖脂肪酸
次の分娩に備えて搾乳を休ませる時期を乾乳期と呼びます。この時期に牛が太りすぎると分娩時の事故が増え、栄養が足りなければ乳量が減ります。乳量を増やすには成長ホルモンのコントロールが有効であり、その方法について研究が進められました。そこで着目されたのが、牛の成長ホルモンを促進するペプチドホルモン「グレリン」です。グレリンは胃から分泌されるため、エサを工夫することでコントロールが可能です。研究の結果、中鎖脂肪酸を乳牛に摂取させるとグレリンの分泌が促進されることがわかりました。合わせて、中鎖脂肪酸とグレリンの働きを応用し、子牛の成長ホルモンコントロールに欠かせない粉ミルクも開発されました。
牛舎の照明のコントロールも鍵
乳牛の飼育管理では、照明のコントロールも大切です。乳牛の個体の成長や乳量増加によいのは、明るい時間が16時間、暗い時間が8時間とされています。これには光の波長により分泌が変化する睡眠ホルモンと呼ばれる「メラトニン」が関係します。メラトニンは成長ホルモンなどの内分泌機能を変化させるもので、メラトニンと乳腺の発達は関係しており、乳量が変化します。単純にメラトニンが高まれば乳量が増えるというわけではなく、分泌を促す時間帯や時期のよしあしもあります。そのため、照明によって光周期(一日の明暗サイクル)をうまくコントロールすることが必要なのです。
また、牛にとってもブルーライトがよくないことがわかりました。牛舎の照明によく使われる白色LEDを長く照射するとメラトニン分泌を抑制し、特に成長期の子牛には悪影響を及ぼすのです。そこで現在は有機LEDを使った照明のコントロールを酪農現場で実践する研究が進められています。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
広島大学 生物生産学部 応用動植物科学プログラム 教授 杉野 利久 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
農学、畜産学、獣医学、動物栄養学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?