乳牛の病気を自然免疫で改善~農家の生産性と食の安全を高めるために
畜産業の生産性が落ちる「乳房炎」の問題
乳牛を育てている農家で常に問題になっているのが、牛の乳房に大腸菌や黄色ブドウ球菌などが入って炎症を起こす「乳房炎」です。昔から知られている病気ですが、ワクチンを打ったり衛生状態に気を付けたりしていても、どの牛舎でも常時1~2割の牛が乳房炎にかかっている状況です。
乳房炎になると牛乳の出が悪くなったり、搾った牛乳の質が悪くて廃棄せざるを得なくなったりするため、農家の生産性が落ち、畜産業の大きな課題の一つです。乳房炎による経済的損失は日本全体で年間700億円とも言われています。
搾乳頻度を減らすことで抗菌物質を増やす
現在、乳房炎は抗生物質での治療が一般的ですが、抗生物質に耐性を持った細菌が出て効かなくなることもあり、搾った牛乳の中に薬剤が混入する懸念もあるなど、課題も抱えています。
そこで、牛自体が持っている自然免疫システムに着目し、なるべく薬剤を使わずに乳房炎を予防する方法が研究されています。牛の乳房には体内で生成される白血球やラクトフェリン、LAPと呼ばれる抗菌物質があり、体内に入った細菌と戦っています。現段階では、搾乳の頻度を減らすと抗菌物質の濃度が増えることがわかり、乳房炎にかかりやすい牛や乳房炎が広がってしまった時にとれる対策が明らかになりました。
自然免疫の研究結果がもたらした進歩
また、この研究過程でわかった大きな発見が、搾った牛乳の中に入っている抗菌物質の殺菌効果です。これまで、搾った牛乳の中にいる細菌は繁殖する一方だと考えられていましたが、乳房炎にかかっている牛の牛乳を調べても細菌が見つからず、治療できないケースが畜産の現場から報告されていました。
そこで、畜産業界と共同で研究した結果、検査サンプルの輸送中に抗菌物質により殺菌されていることがわかったのです。殺菌効果を抑える容器を開発することで乳房炎の検査で細菌の特定が正確にできるようになり、治療できるケースが増えました。大きな進歩と言えます。
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広島大学 生物生産学部 生物生産学科 教授 磯部 直樹 先生
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