がんのリハビリにも効果がある? 患者の願いに寄り添う作業療法
がんのリハビリとしての作業療法
がん患者へのリハビリは、体力をつけて身体機能を維持することをめざした「運動療法」が中心になりがちです。それに対して「作業療法」では、「患者が本当にやりたいこと」を聞き出し、それを実現するための方法を実践します。この作業療法もがんのリハビリに効果があると、さまざまな症例報告からわかってきました。しかし学術的な論文はまだ不足しているため、作業療法の効果を証明するエビデンスを増やそうと研究が行われています。そのひとつが、作業療法と運動療法の比較調査です。
作業療法と運動療法とを比較
比較調査は、白血病やリンパ腫といった血液系のがん患者を対象に実施されました。血液系のがんでは運動まひはないものの、代謝が衰えて筋力もだんだん落ちていき、身の回りのことができなくなっていく傾向が見られます。こうした悪循環に対し、運動療法の有効性は証明済みです。もし作業療法で運動療法と同等の効果が得られれば、がんのリハビリに役立つといえます。
そこで患者が日常生活の中で実現したい活動を目標として設定し、作業療法が試されました。例えば「自分にとっては洗濯が大事」と答えた白血病患者は、無菌室内に衣類を掛けられる場所を作り、自分の服を干す練習を行うのです。その一方で同時期に、同じような血液系のがん患者に運動療法を中心としたリハビリを実施してもらい、効果が比較されました。
患者の幸福感にも変化が
調査の結果、作業療法を行ったがん患者は幸福感が向上し、身体機能も運動療法をした患者と同様に維持向上することがわかりました。がん患者は病気のことばかり考えて気分が落ち込む傾向がありますが、作業療法で目標を設定して取り組むと、「何気ない生活の中にも幸せがある」と気づけます。さらに自分にもできることがあるとわかると自信がついて、気持ちが前向きになっていくのです。ほかのがんに対しても、作業療法の有効性を実証するために同様の比較研究が行われています。
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先生情報 / 大学情報
信州大学 医学部 保健学科 作業療法学専攻 准教授 佐賀里 昭 先生
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