なぜ大切にするの? 文学から見える自然への意識
文学から環境意識を探る
現代では自然を大切にし、有機農法のような環境に優しい手法をとることが「いいこと」とされています。また、自然豊かな景観を求めて旅行や移住をする人もいます。このような自然を重んじる考え方は、最近始まったものではありません。文学に目を向けると、人々の環境への意識が見えてきます。
ロマン主義と自然
18世紀末から19世紀前半にかけて、ヨーロッパ各地でロマン主義文学が書かれました。特徴のひとつが、自然への憧れです。イギリスでもロマン主義が広まり、ワーズワースなど多くの作家が自然をたたえる作品を生み出しました。ロマン主義はやがてイギリスの貿易相手国や植民地にも持ち込まれ、世界中にロマン主義が浸透していきました。
20世紀において、これらのロマン主義の理念はファシズムによって変容しました。ロマン主義の自然への賞賛は、1920年代と30年代においては、在来種と理解されたものに対してのみ保持されました。
ファシズム文学から見えるもの
ファシズムの時代には『ジャングル・ブック』など、自然の中で生きる登場人物たちを描いた児童文学も書かれました。『ジャングル・ブック』の作者であるキップリングはファシズム思想の持ち主です。自然を賛美するだけでなく、「ほかの人種を支配して教育することは白人の義務だ」と主張していました。キップリングは、すべての自然に階層が存在し、強者が弱者を支配するのは自然の摂理であると考えていました。
人種差別や外国人排斥といった思想は第二次世界大戦後に薄れていきましたが、人間が自然界を見るときの価値観にはまだ根強く残っています。例えば日本に古くから住んでいる動植物は在来種、海外から持ち込まれたものは外来種として区別され、多くの人は在来種を重んじているでしょう。こうした自然のとらえ方は本当に「いいもの」なのか、過去には自然に対する異なる思想はなかったのかなど、文学をヒントにして研究が続けられています。
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