講義No.03242 外国文学

文学に国境はない

文学に国境はない

枠組みは、時代とともに変化する

文学は、言語による芸術表現です。話すことも書くことも言葉を用いるため、小説、詩はもちろんのこと、演劇や哲学、歴史なども文学ととらえることができますし、漫画も入るかもしれません。よく考えてみると、文学は大変幅広い芸術だと言えます。さらに、文芸批評の世界では文学を、イギリス文学、アメリカ文学、ドイツ文学、ロシア文学、フランス文学など、その国特有の文学としてとらえるのが一般的ですが、この国民文学という枠組みも、実は曖昧(あいまい)なものなので、現実的にはそろそろ対処できなくなってきています。

現実をどんな手段で切り取るか

例えば、グロリア・アンザルドゥーアというメキシコ系アメリカ人作家が、1987年に発表した『ボーダー・ランズ/ラ・フロンテーラ』という作品があります。描かれているのは、隣り合うアメリカとメキシコの現実。双方は衝突と融合を繰り返しながら、国境地帯で独自の文化を形成してきました。また、アメリカにはたくさんのメキシコ人が、合法・非合法にかかわらず暮らしており、日常的にスペイン語が使われる一方、日常生活のため英語も使う人々がたくさんいます。こうした現実の中で生まれる矛盾や軋轢(あつれき)、人の心の動きなどを作家が表現しようとするとき、それまでの文学で使い古されたスタイルをとらず、人々の想像の先をいくことがあるのです。

新しい言語芸術へ

スペイン語と英語を織り交ぜて書かれたこの作品は、一般的な小説でもなく、エッセイとも言い切れず、詩や散文、神話や歴史といったさまざまな要素が入った、これまでのジャンルの枠を超えたものでした。このように、文学は常に新しい形を模索し、変化を続けています。そして批評とは、できるだけ思いこみや常識に流されずに、物事の価値を判断することです。文芸批評という分野も、既存の枠組みを超える姿勢が求められているのです。

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横浜市立大学 国際教養学部 国際教養学科 准教授 中谷 崇 先生

横浜市立大学 国際教養学部 国際教養学科 准教授 中谷 崇 先生

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メッセージ

文学の読み方の手法を教えることはできますが、物の見方や考え方そのものは教わるべきものではありません。作品を読んで何かを感じるためには、理論だけでなく、とにかくたくさん読むことです。“文学”と聞くと、なんだか権威あるもののように感じ、敬遠してしまう人もいるでしょう。でも、「権威づけられたものこそ、疑ってかかれ」が文学の基本です。そしてこれは、どのような学問にも当てはまります。権威主義から解き放たれた批判精神をもって、文学に、そして学問に触れていってください。

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