ゴースト・ストーリーに託された魂のゆくえ
科学と幽霊の深い関係
19世紀末から20世紀初頭に活躍した英米の作家は、ときに幽霊を題材にした小説を書きました。『ねじの回転』で有名なヘンリー・ジェイムズや、『エイジ・オブ・イノセンス』で女性として初めてピューリッツァー賞を受賞したイーディス・ウォートンも、ゴースト・ストーリーを手掛けています。当時は、心霊主義(スピリチュアリズム)と呼ばれる、「魂は存在し肉体の死後も継続する」という思想を科学的に検証しようとする動きもありました。つまり幽霊の存在を証明しようと試みたのです。幽霊は古代より続く文学の伝統的な主題ですが、こうした同時代の思想や文化的動向がインスピレーションとなり、ゴースト・ストーリーはますます発展していきました。
仮説としての『ねじの回転』
『ねじの回転』の舞台はイギリスのとある屋敷です。幼い兄妹のために雇われた家庭教師は、子どもたちの様子がおかしいことに気がつく。やがて彼らが見ているものと同じと思われる幽霊を目撃するも……というのが本作のあらすじです。幽霊は実際に存在して、死後も人間はその痕跡を残すのでしょうか。それとも幽霊など主人公の妄想の産物に過ぎないのでしょうか。私たちはそのどちらの解釈も取ることができます。小説は答えを与えてはくれません。ジェイムズは『ねじの回転』で、小説という舞台を実験施設のような場所として用い、幽霊にまつわる現象や付随する人間心理について、結論なき思考実験を行ってるのです。
思索のきっかけとしての幽霊
ジェイムズもウォートンも心霊主義を作品に取り入れ、それを批評的に扱いながら小説を執筆しました。それを通じて人間の心に対して深いまなざしを注いだ点では共通点が見られるものの、着眼点はそれぞれ異なります。ジェイムズは、幽霊という存在の検討を通じて人間の想像力が拡張されることに知的な興味を抱いています。対してウォートンは、死後にも魂が残るのであれば人間にとってなんらかの救いになるのではないかという観点からゴースト・ストーリーを執筆しています。
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