ドイツ語だからこそ表現できる恋心 言語を通して知る本当の異文化
名詞に性の区別があるドイツ語
ドイツ語は、英語と姉妹語と呼ばれるほど似た性質をもっています。また、発音がローマ字読みに近いことから、日本語話者にもなじみやすい言語です。一方で、日本語との大きな違いは名詞に性の区別があることです。例えばMond(月)は男性名詞、Sonne(太陽)は女性名詞、Universum(宇宙)は中性名詞というように、すべての名詞が男性・女性・中性のいずれかに属しています。
社会と言語の関係
職業名など人を表す名詞は、ドイツ語では男性名詞が基本です。女性を表す場合はたいてい名詞に-inをつけます。例えば男子学生はStudent、女子学生はStudentinです。この形式の女性名詞は、男女平等の意識の高まりとともに増えていきました。さらに、近年では「彼」「彼女」「それ以外」のいずれの性の人も指しうる新しい代名詞が提案されるなど、よりジェンダーニュートラルな表現も生まれています。このように、一見すると現代社会に合わない点もある名詞の性ですが、だからといって今後はなくなる、と簡単に断言することはできません。なぜなら、言語とその言語を使う人々の認識や文化は、深く結びついているからです。
異文化を知ること
ドイツ語圏の詩人ハインリヒ・ハイネの「寂しい松の木」という詩には「その松の木が夢見るは 遥か東の椰子のこと」という意味の一節があります。この詩をドイツ語の原文で読むと、松の木(Fichtenbaum)が男性名詞、椰子(Palme)は女性名詞であることに気付きます。そのことから、ある女性を慕う男性の思いが、ドイツ語ならではの表現として、間接的に描かれていると解釈できるのです。
よく「異文化を知る」といいますが、それは単にコミュニケーションの手段としての言葉を覚え、情報を知ることだけではありません。その国、その地域に固有の言語の特徴を明らかにして、その言語圏の中で育まれてきたものの見方や価値観を知ることこそが、より深い異文化理解を可能にするのです。
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大阪公立大学 文学部 言語文化学科 講師 信國 萌 先生
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