19世紀のアメリカ詩人ウォルト・ホイットマン
ダイバーシティ&インクルージョン
人種や性差に基づく差別が当たり前のように存在した19世紀前半のアメリカにおいて、ホイットマンは、人種・民族、性差、階級などあらゆる制度や差異を超えた、人間の根源的な平等性や多様性を尊重することの重要性を主張しました。そのような平等主義をもっとも端的に表す、「ぼくは多様なものをいっぱい包み込んでいるんだ」というフレーズがあります。このようなホイットマンの思想は、現代日本でも重視されるようになった「ダイバーシティ&インクルージョン」という概念にも通じる部分が多々あります。
自己肯定感を高める
19世紀初頭のアメリカは独立したばかりの文化後進国でした。そんな時代にあってホイットマンはまずアメリカ人の自己肯定感を高めようとします。代表作の“Song of Myself”という詩で、「ぼくは自分自身を祝福し自分自身を歌う」とまずは自分を褒め讃えるのです。「なんと傲慢な!」と思われるかも知れませんが、この文章における「わたし」は、ホイットマン個人というよりも、この詩を読むすべての人間にとっての「わたし」なのだと考えてください。そうやって、ホイットマンは当時まだ自信のなかったアメリカ人の自己肯定感を高めようとしたのです。この詩を(できれば英語で)読むと、自信のない人も自己肯定感が高まります。
文学テクストを読むこと
文学テクストは時代によってその読まれ方が変わります。作品を取り巻く状況が変われば、文学テクストの解釈も変化するのです。例えばホイットマンは、19世紀半ばのアメリカではあまりにも革新的であったため評価されませんでした。しかし今日では人種問題、LGBTQ、ルッキズムなど、現代社会における様々な問題を先取りしていた詩人としての再評価が進んでいます。このように作家の評価や文学テクストの読まれ方は時代と共に変化するのです。時代によって変化する文学テクストの新しい個性的な読みの可能性を広げることができるのは、今のところAIではなく人間だけなのです。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
駒澤大学 文学部 英米文学科 教授 川崎 浩太郎 先生
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