不朽の名作が消える? 社会の変化と学びによる受け止め方の変化
戦後の不朽の名作
『風と共に去りぬ』は戦前に発表されたアメリカの作家による長編小説であり、戦後には日本でも映画が大ヒットしました。物語は1860年代のアメリカ南部を舞台に、大地主の娘が南北戦争の中でたくましく成長する姿が描かれています。主人公が戦争により荒れた畑に立ち上がって、「二度と家族を飢えさせない、生き抜いてみせる」と宣言する名シーンが、戦後の焼け野原からの復興をめざしていた日本人の共感を得たのだと考えられています。
映画の配信停止へ
しかし、2020年には人種差別に抗議するブラック・ライヴズ・マター運動が高まり、同映画はあるストリーミングサービスの配信ラインナップから一時的に削除されました。映画には、白人が黒人奴隷を所有して使役すること、すなわち人種主義が美化されて描かれているためです。また、その後のアメリカ社会に、「女を襲う野蛮な黒人」や「白人に仕える善良な黒人」というステレオタイプのイメージを植え付ける要因にもなりました。このような差別的な視点を再生産しかねないとして、配信停止が求められたのです。現在は配信が再開されていますが、映画の冒頭には4分半にも及ぶ解説文が挿入されています。
社会的なメッセージ
作品の受け取り方は、社会の変化だけでなく自分自身の成長によっても変わります。例えば児童文学の『あしながおじさん』は、児童養護施設で暮らす主人公が見知らぬ人からの奨学金で大学に進学し、幸せをつかむという物語です。子どもの頃に読むと、幸せなシンデレラストーリーとして受け取るかもしれません。大人になって社会的な視点を持ってから読むと、特権階級から一般人への教育の広がりや、女性に選挙権のない時代背景など、作品に込められた社会的なメッセージに気づくでしょう。
文学や映画などの作品は、年を経てから再度見直すことで、違和感などの新たな気づきを得ることができます。自分が学んだことはこのように生かされていくのです。
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専修大学 国際コミュニケーション学部 異文化コミュニケーション学科 教授 越智 博美 先生
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