イギリスの作家、ジョージ・エリオットの作品から読み解く「共感」
ジョージ・エリオットの作品に表れる信条
19世紀イギリスの女性作家、ジョージ・エリオットは、現実的な社会の問題や人間の複雑な深層心理を探求し、彼女自身の哲学的・道徳的な信条を作品に反映しています。エリオットは、平凡な人々が互いに「共感」を持って日々積み重ねた小さな善行によって、社会そして世界が良くなると信じていました。では、エリオットの考える共感とは一体どんなものなのでしょうか。
エリオットが理想とした「共感」
エリオット作品における共感の概念は、登場人物の行動や思考から読み取ることができます。作品には、相手の立場を想像して共感を示し、自身の利己的な欲求を抑えながら寄り添おうとする人物や、相手の弱さを理解せずに厳しく接した過去を後悔して、再び共感し直そうとする人物が登場します。エリオットが作品の中で描き出そうとした共感とは、自身が苦境に置かれているにもかかわらず他者に寄り添うこと、そして自己反省を経て他者との関係を再構築することなのです。
スミスの「同感」とエリオットの「共感」の違い
18世紀イギリスの哲学者、アダム・スミスは、『道徳感情論』の中で、他者の心情を推察し、それが同情に値するかを冷静に判断する同感論を展開しています。エリオットの共感の概念も、自分や他人の心情を、主観を交えず客観視する重要性は、スミスと共通するようです。しかしスミスによると、当事者は観察者に心境を理解してもらうために、感情を自制しなくてはなりません。エリオットの共感は、後期の作品『ミドルマーチ』に描き出されているように、観察者の方が嫉妬や悲しみといった感情を自制し、自己により良い判断をさせるための道徳的努力を行い、当事者の気持ちに寄り添おうとするものです。スミスの同感と比べ、エリオットはより複雑な共感概念を描き出しています。
このように、文学作品の中には作家の信条や物事への考え方が表れています。作品に描かれるさまざまな人物の視点を間接的に取り入れることで、自分自身の共感力や道徳判断力を高められるのです。
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