「人間の本質」を哲学で考えてみる

「人間の本質」を哲学で考えてみる

精神と身体

「人間とは何か」を考えるときに、伝統的な哲学では、高度な理性や精神こそ人間の固有性だと捉えてきました。しかし現代哲学においては、人間が精神だけでなく身体を伴っていることに改めて注目する傾向が見られます。身体を伴うことを重視すれば、性差や、生まれ、老い、死ぬこと、子どもを生んだり生まなかったりする生殖も人間にとって本質的ということになります。

生殖するものとしての人間

生殖に焦点を当てると、個々人のレベルでは、産む人と産まない人、子をもつ人ともたない人がいるという個人差があります。これらの人の間には明確な境界線があるように思えますが、より普遍的な視点から見れば、境界線は人間が恣意(しい)的に強調したものに過ぎません。たとえば「母性」という見方は、女性を母である(になる)ことに結び付けて見ようとする人々の価値観によって形成されてきたものと言えます。女の子が幼少期に人形やままごとセットを与えられたり、妊娠中の女性に「ママの顔になってきたね」と声をかけるなど、無自覚に女性を母に結び付ける慣習やふるまいは無数にあります。子どもをもたない場合でも、生殖関連機能や現象に翻弄されるなど、生殖には誰もが巻き込まれています。
さらに、自分の子どもを生み出すという直接の生殖だけでなく、自身が力を注いできた何かを引き継いだり、後進を育てたり、環境を守って次世代に託すなども、広義の生殖の一側面と言えます。自身がいなくなった後のことを自分の延長として考えることは、生殖するものとしての人間ならではの特徴かもしれません。

哲学の特徴

同様のテーマは社会学など他の学問でも扱いますが、哲学は前に進もうとするよりも、まず当たり前に見える前提自体を疑い、ものごとの根っこの方へと遡り、掘り下げていくのが特徴です。同じ主題に対して哲学者ごとに異なる掘り下げ方をするので、誰かが一度答えを出したらその問題は解決というわけではありません。哲学では問いの答えだけでなく、主張を論理的に筋道立てて提示する過程が重要なのです。

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先生情報 / 大学情報

神戸大学 文学部 人文学科 教授 中 真生 先生

神戸大学 文学部 人文学科 教授 中 真生 先生

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現代哲学、倫理学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私はどちらかというとのんびり屋で、学生の時もどんどん自分の道を切り拓いて行く同級生に比べ、決して優等生とは言えず、立ち止まりながら、出遅れながらも、哲学の中で、これなら自分も夢中になれそうだというテーマを試行錯誤しながら見つけて今の研究に至っています。その学問分野の知識が豊富だから、点数がよいからその道に進むというのではなくてもよいと思います。人生や回りのことに疑問をもって立ち止まったら、そこには哲学の道が開けているかもしれません。人と比べるのではなく、自分自身の疑問や関心を大切にしてください。

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