ミュージアムからアメリカ社会を見る
アメリカのミュージアム
アメリカでは、博物館・美術館は身近な存在であり、年間来館者数がアメリカの3大スポーツであるアメフト・野球・バスケットボールの観客合計をも上回るほどです。スミソニアン博物館などのアメリカを代表するミュージアムは、日本のものよりはるかに規模が大きい一方で、「掃除機」や「ニュース」に特化したような面白いミュージアムもたくさんあります。展覧会だけでなく結婚式などの催事も行われ、ミュージアムは、人々の生活に深く関わる存在となっています。
観光地化する医学博物館
フィラデルフィアにあるムター博物館はペンシルベニア大学付属の医学博物館です。医療器具などだけでなく本物の人体の標本さえ所蔵しており、開館当初は医療関係者のみに利用が限定されていました。1976年にアメリカ建国200年祭が行われ、アメリカ建国期の首都であるフィラデルフィアは急速に観光地化されました。これを契機に、ムター博物館は商業的な公開に舵を切ったのです。入場料さえ払えば誰もが展示された遺体を見ることができ、土産ものにもそれらをアイコン化した商品が並びます。頭が2つあり胴体を共有する結合双生児の形をしたクッキー型、全身の脂肪がせっけん状になった女性を模したせっけんはその代表で、ファンに愛されています。この事を知って、どのように感じるだろうか? 商売が上手い? あるいは、不道徳? これらが社会的な問題とならないのは、権威ある博物館が行う医学教育のための展示だという大義名分があるからです。
ミュージアムから見えるもの
ともすれば大論争を呼びそうな遺体の展示が、アメリカ社会でいかに成立して、人々はどう受け止めているのか。このように問いを立てると、社会に根ざしたミュージアムという「レンズ」を通して、アメリカに住む人々の価値観を理解することができるのです。展示の実態や、来館者の様子、報道やSNS、地域の歴史などを人文科学の観点から眺めると、そこにアメリカ社会のあり方が浮かび上がってくるのです。
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先生情報 / 大学情報
武蔵大学 人文学部 英語英米文化学科 准教授 小森 真樹 先生
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ミュージアム研究、アメリカ研究先生が目指すSDGs
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