カメ類の進化の歴史を明らかに 保全にもつながる遺伝子解析
クサガメは在来種? 外来種?
カメ類は私たちになじみのある生物のひとつであり、現在地球上に300種以上が生息しています。国内でよく見られるカメの種類に、クサガメとニホンイシガメがあります。さらに、クサガメは韓国や中国にもいます。クサガメは長らく日本に古くから生息する在来種と考えられていました。しかし、化石がみつかっておらず、クサガメの文献記録も最も古い記録が江戸時代半ばのものである、などのことから、本当にクサガメは在来種なのか、むしろ外来種ではないのか、という疑問が出てきました。
遺伝子解析からの検証
そこで日本に生息するクサガメと国外のクサガメの遺伝的な差異の調査が行われました。在来種であれば、国内のクサガメの中に多様な変異があり、国外のクサガメとは遺伝的に離れていることが予想されます。
国内外のクサガメの遺伝的変異を調べた結果、国内では遺伝的に大きく異なる3系統が確認されました。一方で、系統内でみると遺伝的変異はとても小さく、また各系統の遺伝子塩基配列は、それぞれ韓国の個体の配列、台湾や中国の個体の配列、そして中国由来と見られる配列と完全に、またはほぼ一致しました。このような、系統内の遺伝的変異が乏しいことや国外のものと遺伝的によく似ているという結果は、日本のクサガメが外来種である、という見解と矛盾しません。
種の保全には遺伝子系統の保全が必要
一方、ニホンイシガメは、日本だけに生息する固有種です。近年は各地で個体数が減っており、2020年版環境省レッドリストでは準絶滅危惧種に指定されています。日本各地のニホンイシガメの遺伝的変異を調べたところ、中国地方を境に、その東側と西側で系統が分かれることが判明しました。つまり、ニホンイシガメを保全する際には、遺伝子レベルでは異なる2系統があるため、系統ごとに分けて保全する必要があるのです。このような保全の必要性は、遺伝子を調べることではじめてわかります。遺伝子解析によって生物の歴史を知るだけでなく、生物多様性の保全にも貢献できるのです。
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