「恐竜のような二枚貝」の化石から恐竜時代の地球環境を探る
「恐竜のような二枚貝」
恐竜時代の海にはどのような二枚貝がくらしていたのでしょうか。後期白亜紀の熱帯の浅い海には「恐竜のような二枚貝」が栄えていました。厚歯二枚貝は、蓋付き湯飲み、巻貝、あるいは哺乳類の角のような奇妙な形を持つこと、殻の大きさが1mにも達する種類がいること、後期ジュラ紀に出現して、鳥以外の恐竜と同時に絶滅したことなどから、まさに「恐竜のような二枚貝」と言えます。
サンゴがいない「サンゴ礁」
厚歯二枚貝は、日本からも化石がわずかに発見されますが、街中のビルの石材中に密集しているのをしばしば見かけます。実は、後期白亜紀は、極域にも氷床が発達せず、海面が現在より200mも高くなり、大陸の上にも広大な浅海域が存在した時代です。熱帯域には、現在ならサンゴ礁が形成されますが、白亜紀には、地球の歴史上ただ一度だけ、二枚貝の仲間が礁性環境の主役となり、サンゴがいない「サンゴ礁」が広がりました。厚歯二枚貝が主な構成要素となった大規模な礁性石灰岩は、日本でも輸入石材として広く利用されるほか、中東やカリブ海周辺地域では石油を貯める重要な層ともなっています。
「温室地球」の語り部
どうして厚歯二枚貝が白亜紀の熱帯の海の主役となれたのでしょうか。コンピュータで、地形の条件のみを白亜紀のものに変えて古気候シミュレーションをしても、氷床のない地球は再現できません。白亜紀には火山活動が非常に活発で、大気中の二酸化炭素濃度が4倍以上に上がり、著しい地球温暖化が進んでいたと推測されます。白亜紀の海では、現在とは海水組成が異なり、富栄養化が進んだほか、生物の絶滅イベントが頻繁に生じるなど、当時の地球表層環境は現在のものとは著しく異なっていたようです。白亜紀の、いわば「温室地球」の環境条件が、サンゴの衰退と厚歯二枚貝の繁栄に関連していたと考えられます。逆に言えば、厚歯二枚貝の研究を通じて、「温室地球」の表層環境とその変化を紐解き、さらには私達が直面する地球環境問題を考えるヒントを得ることができるのです。
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富山大学 都市デザイン学部 地球システム科学科 教授 佐野 晋一 先生
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