ユダヤ人は何を求めてフランスに住むようになったのか

ユダヤ人は何を求めてフランスに住むようになったのか

独仏の文化を併せ持つアルザス

長年、フランスとドイツの係争地だったアルザスは、さまざまな面で両国の影響を受けています。フランス領となった今もドイツ風の建築物が残っており、地域言語のアルザス語もドイツ語の流れをくんでいます。料理は両国の良さを併せ持つことから独特の地方料理が有名で、スイーツ店も多く、パティスリー界の第一人者ピエール・エルメもアルザスの出身です。ドイツ生まれのクリスマスツリーがフランスで最初に飾られるようになったのもアルザスだと言われています。

ユダヤ人はなぜアルザスに住んだのか

フランスはイスラエル、アメリカ、ロシアに次いでユダヤ人の多い国でもあるのですが、そのルーツもアルザスにあります。ライン川を利用した物流の中心地でもあったアルザスは、人の交流も盛んで、その中にはユダヤ人も多くいました。中世ヨーロッパにおけるユダヤ人はいわゆる「賤民(せんみん)」であり、三十年戦争後にこの地を手に入れたフランスはカトリック国であることから、ユダヤ人の追放令をこの時点ですでに出していました。しかし、彼らは軍馬の供給や行商、金貸しなど、住民にとって必要不可欠な仕事に従事しており、加えてアルザスはパリから遠く離れた辺境地域であったことから、領主の裁量でユダヤ人の居住は黙認されました。

ユダヤ人を一括りにはできない

フランス革命以降、ユダヤ人にも市民権が与えられて居住地や職業の制限も解けました。彼らは「ユダヤ教を信仰するフランス人」とされ、将校や大臣になる者も現れました。19世紀末になるとロシアを含む東欧のユダヤ人たちがフランスに移住するようになりました。しかし、古くから住んでいるユダヤ人はフランスへの愛国心を示す一方で、新しく入ってくるユダヤ人たちは旧来の伝統に固執しているとして好ましく思わないところもありました。ユダヤ人同士でも一枚岩ではなかったのです。彼らがたどって来た歴史は複雑であり、同じ「ユダヤ人」と一括りに考えずに、さまざまな背景を踏まえて捉えていく必要があります。

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東海大学 文学部 歴史学科 西洋史専攻 教授 川﨑 亜紀子 先生

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近代ユダヤ史学、フランス史学

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メッセージ

できることならば、社会に出る前に一度は日本以外の国を訪れてみましょう。どの国も行ってみると、意外とイメージと違うところがあります。きらびやかなイメージの強いフランスですが、実は革命のような血なまぐさい一面もあり、何度となくそれを繰り返して権利を勝ち取って来たエネルギーを持っています。そうしたことの一端を肌で感じることで、物事を見る視点も変わってきます。社会人になるとどうしてもしがらみが生まれてしまいますから、それがない時期に自由に自分の興味のある国を旅してください。

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