イメージとは違う、本当の忍者から見えてくる日本人らしさ
本当の忍者は手裏剣を使わない
アニメや映画に登場する忍者は、黒装束で城や屋敷に忍び込み、手裏剣や武器を使って闘うイメージがあります。でも、忍術書などを調べると、まったく異なる忍者の姿が見えてくるのです。戦国時代、忍者の主な仕事は、敵の情報収集でした。情報を味方に伝えるためには、生きて帰ることが最優先だったので、火をつけたり、破壊をしたりしても、危険をおかして闘うことはほとんどありませんでした。手裏剣も刀も使わず、くのいち(女忍者)もいなかったというのが本当のところです。
密教的な兵法と妖術が混同した忍術へ
情報を収集するために、忍者たちは商人・僧侶・曲芸師などに変装し、その土地ならではの言葉や風習を覚えて、敵の領地に潜入しました。活動する時は、目立たないように野良着(農作業着)を着て、敵の城内の配置、食糧や武器の備蓄量、攻めやすい通路などの情報を集めたのです。
江戸時代になって戦がなくなると、忍者の仕事は城や屋敷の警備が中心になりますが、一方、歌舞伎や絵草子に登場する忍者は不思議な術を使う超人のように誇張されていきます。その根底には、空を飛んだり、呪術で相手にダメージを与えたりする、中世の密教的な兵法が忍術に受け継がれていたこと、さらに「大蛙(おおがえる)に化ける」といった中国の妖術などがあると考えられます。
日本人らしい精神性が忍者の魅力
忍術や忍者については秘伝や口伝えの部分が大きく、残っている文献は信頼性に欠けるものも少なくありません。しかし、勤勉で、自分を抑えて目上の命令に従い、忍耐強く仕える忍者の姿は、日本人らしさや日本文化を非常によく表している象徴だと言えます。敵方に忍びこんで情報収集する行為も、全面対決を避け、被害や犠牲を最小限にするための「根回し」とも考えられるのです。
忍者が世界の人々をも引きつけるのは、単純にクールで格好いいからだけではなく、日本の伝統的な精神性をともなった、不思議な魅力があるからだと言えるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
三重大学 人文学部 文化学科 教授 山田 雄司 先生
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