温泉の成分がマグマの活動を解き明かす!? 火山化学の重要な使命
日本でも珍しい学問、「火山化学」とは
火山のモニタリングといえば、地震計などの観測機器を遠隔でモニターしているイメージがあるかもしれません。こうした物理的な観測に、化学の見地に立った観測が加わって初めて、火山の全体像をとらえることができます。病気の検査に例えれば、物理学的火山観測はレントゲン写真を用いた診断、一方、化学的火山観測は血液検査のようなものです。化学的火山観測では、火山ガスや温泉、噴石などをサンプリングして分析します。物理と化学、同じ現象を対象としていても、視点が異なり、どちらが欠けても火山に対する診断は下せません。
見えない地下の出来事を温泉水に聞く
実際の調査では、平常時で1年に1~2度、活動期であれば1カ月に1~2度くらいの頻度で、マグマ由来のガスが混じっている火口湖の水や温泉水を採取し、組成の変化を分析します。化学成分の濃度は雨水が入ると薄まってしまうので、基本的には成分間の比率を調べます。
例えば、地表では沸点があるために100℃以上にはならない温泉水も、地下ではずっと温度が高く、火山活動が活発化した影響を受けると、ケイ素やそのほかの不特定の化学成分の濃度や割合が高くなることがあります。その化学組成の変化を見ることで、元となるマグマの温度の変化が推測できます。
いざという時のための積み重ね
ただし水の地下での流動は遅いですから、例えば温泉水だと1年や2年という時間をかけてゆっくりと変化します。したがって温泉水だけを分析していても、それが噴火予知に繋がるとは限りません。しかし、火山が活発になった時に火山の下で一体何が起きていたのかを知るための重要なデータとなります。
このようなデータは噴火しない限りは注目を浴びず、平常時の観測には意味がないと思われがちですが、噴火してから観測を始めても、比較対象となる平常時のデータがなければ、何が起こったのかはわからないままです。自然や災害を研究する際には、長いスパンで物事を考え、分析し、地道に記録を積み重ねておくことが大切なのです。
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先生情報 / 大学情報
上智大学 理工学部 物質生命理工学科 教授 木川田 喜一 先生
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