漢方薬という財産を将来につなげるために
科学的エビデンスでもっと漢方薬の活用を
漢方薬を現代医療にもっと活用していくためには、達成しなければならない大きな課題があります。それは、生薬に含まれる成分の有効性について科学的なエビデンス(根拠・裏付け)を構築していくことです。漢方薬は長い間使われてきた経験知で有効とわかっているのですが、一つの生薬で200種類以上の成分があります。どれが人体にどう作用しているのかという「薬が効く仕組み」は、まだまだ解明されていない部分が多く、医師が現代医療の枠組みの中で使いにくいという現状があります。一方、漢方薬の効果を維持するためには、良質の生薬を安定的に生産する生薬栽培の研究も重要です。
漢方薬の原料、野生の「生薬」が減っている
中国が発祥で2000年~3000年という歴史を持つ漢方薬は、病院でも処方されるなど、現代医療にも活用されています。漢方薬は「生薬」と呼ばれる薬草を数種類組み合わせて作られますが、日本ではこの生薬のほとんどを輸入に頼っています。「カンゾウ」という生薬は漢方薬の7割に使用されており、スナック菓子などの甘味料にも使われている「グリチルリチン酸」を含んでいます。この物質は化学的な合成が難しく、カンゾウから取るしかありません。このカンゾウは現在、野生のものを採集しているのですが、地球環境の変化などにより減ってきています。カンゾウがないと、漢方薬の7割が作れなくなります。
カンゾウを栽培するために
そこで、将来も安定的にカンゾウを入手するため、日本国内で栽培する研究が行われています。野生のカンゾウを交配して、日本の風土でも育てやすい品種を作り出すのです。その結果、法律で定められた品質基準を満たす質の良いカンゾウの品種が開発されました。野生のものは生薬として利用できるまで7~8年かかるところを、2~3年で収穫できるメリットもあります。これを農家や製薬会社で栽培できれば、漢方薬という大きな財産をしっかりと将来につなげていくことができるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
大阪医科薬科大学 薬学部 薬学科 臨床漢方薬学研究室 教授 芝野 真喜雄 先生
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