「ちょっとキツいから雄になるわ」 実はあやふやな魚の性別

「ちょっとキツいから雄になるわ」 実はあやふやな魚の性別

養殖魚は雄ばかり?

ウナギやヒラメなどの養殖魚は、環境によってなぜか雄ばかりになることが知られています。雄を選んで養殖しているわけではなく、魚はストレスのある環境下におかれると雄化してしまう習性があるからです。ただ、ヒラメなどは雌の方が成長が早く、体も大きくなるため、養殖では雌が好まれます。一方フグの場合は、白子が取れる雄に対し雌の卵巣には毒があるので、雄が重宝されます。こうしたニーズに応えられるような魚の性コントロール(性統御)の研究が行われています。

ストレスで雄化を引き起こす因子

ヒラメなどの養殖魚は性成熟するのに1年以上かかるため、研究には2~3カ月で性成熟するメダカが使われています。メダカの性染色体は哺乳類と同じく雌がXX、雄がXYで、水温を上げるなどのストレスを与えると、コルチゾルというストレスホルモンが分泌されてXX個体が雄化することがわかっています。このときに働く、環境ストレスで雄化を引き起こす因子「PPARα」が発見され、これをノックアウト(破壊)したXXのメダカはストレスを与えても雄化しないことがわかりました。この雄化しないメダカが実際にストレスのある環境でも生き残れるのか、さらに研究が進められています。

すべて雌の集団を作る

ヒラメについてはすでに個体の性染色体を判別する方法が開発されているので、XX、XY個体をうまく掛け合わせて全XX集団を人為的に作ることができます。しかしせっかく作ったXX個体も、ストレスで雄化してしまう可能性があります。PPARαのような雄化を引き起こす因子を破壊すれば、環境によるXX個体の雄化を防ぎ、さらにY染色体上にある性決定遺伝子も壊せばXY個体も雄にならないため、完全な雌の集団を作ることができます。実際にはPPARαと性決定遺伝子が共通して働く下流遺伝子を壊せばどちらの機能も失わせることが可能で、新しい性統御法として期待されています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

熊本大学 理学部 理学科 教授 北野 健 先生

熊本大学 理学部 理学科 教授 北野 健 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

動物生理学、水圏生命科学

先生が目指すSDGs

メッセージ

「好きこそものの上手なれ」というように、自分の好きなものには楽しく取り組めて、そのスキルもアップしていくものです。なにか興味を持てるものを見つけて、それを突き詰めていってほしいです。またそこで生じた疑問を大切にしてください。私の場合は小さい頃から生き物が好きでした。毎日のように魚釣りをしていたので、とくに魚に興味があったのだと思います。最初に抱いた疑問は、なぜメダカの雄と雌でひれの形が違うのだろうということでした。その疑問が、今の研究テーマにつながっています。

熊本大学に関心を持ったあなたは

熊本大学は、「総合大学として、知の創造、継承、発展に努め、知的、道徳的、及び応用的能力を備えた人材を育成することにより、地域と国際社会に貢献する」という理念に基づき、地域のリーダーとしての役目を果たしています。かつ、世界に向け様々な情報を発信しながら、世界の学術研究拠点、グローバルなアカデミックハブとして、その存在感を高める努力をし、教育においては、累計30件にも及ぶ「特色ある教育プログラム」が優れた取り組みとして文部科学省から認定され、その教育力の高さと質の高い教育内容は定評のあるところです。