イセエビ類の幼生はクラゲを食べる? 共生の謎を解き養殖をめざす
魚介類の養殖はなぜ難しい?
食卓に並ぶ魚介類は、ほとんどが成体です。しかし多くの魚介類には、卵から出てきたばかりの幼生としての時代があります。幼生期は成体とは異なる姿や生態を持っており、謎が多いのです。例えば、何を食べているか、どうやって泳いでいるか、といったことも多くの魚介類の幼生では知られていません。そのため、養殖技術がまだ確立されていない魚介類はたくさんいます。そもそも何を餌としているのか、コストを抑えるために安定して入手できる餌はないか、などの研究が進められています。
クラゲを食べるイセエビ類の幼生
イセエビ類やセミエビ類の養殖に役立つと考えられている餌の候補がクラゲです。これらの幼生は海中でよくクラゲに乗っているのですが、このとき幼生はクラゲを移動手段だけでなく、餌としても利用しているのです。そこで、養殖の餌にクラゲを利用できないか、ミズクラゲやアカクラゲを使って研究しました。その結果、セミエビ類の仲間であるウチワエビの幼生がクラゲを食べて成長できることが確かめられました。クラゲには毒がありますが、幼生は毒に対抗する手段を持っていることも分かりました。海でのクラゲの出現は日和見的で、安定した供給が困難です。そのため、クラゲの生産やクラゲに代わる餌についての研究も進めています。
環境変化は幼生の大敵
魚介類の幼生はちょっとした水温や波の変化にも敏感です。地球温暖化の影響で海水温が上がると生存率が下がってしまうのはそのためです。養殖では、幼生の成長に適した環境を整えることができると、より多くの幼生がより速く成体まで成長します。たとえば、ウチワエビの幼生は日本周辺の海では15~20度ほどの水温で暮らしていますが、養殖の条件では22~23度でもっとも良く成長します。また、幼生は日の出と日の入りを感知して体内リズムを作り、日の出前後に脱皮します。一つひとつの環境要因に対する幼生の反応を確かめることで、保つべき水温や光の周期などの養殖の条件を作ることができます。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
広島大学 生物生産学部 水圏統合科学プログラム 准教授 若林 香織 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
水圏生産科学先生が目指すSDGs
先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?